愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題113 漢詩を読む 酒に対す-30; 李白 自遣

2019-08-02 09:48:36 | 漢詩を読む
この一対の句!

醉(ヨイ)より起(オ)きて溪月(ケイゲツ)に步めば、
鳥は還(カエ)り 人も亦(マ)た稀(マレ)なり。

暮れたのも知らずに飲んで、一寝入りしたのでしょうか。酔いから醒めて、月明かりの下、谷川のほとりをトボトボと。鳥は塒に帰り、人もまばら、……。しんみり とするような雰囲気です。

李白の五言絶句「自遣」(下記参照)です。これまで随分と李白の詩を読んできました。いずれも豪放磊落、意気や盛ん という“陽”の感じの内容の詩でした。今回の詩のような「李白」もいたのです。

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<原文および読み下し文>
自遣 自(ミズカ)ら遣(ヤ)る  
対酒不覚暝、 酒に対して暝(ク)るるを覚(オボ)えず、
落花盁我衣。 落花 我が衣(コロモ)に盁(ミ)つ。
醉起步溪月、 醉(ヨイ)より起(オ)きて溪月(ケイゲツ)に步めば、
鳥還人亦稀。 鳥は還(カエ)り 人も亦(マ)た稀(マレ)なり。
註]
自遣:みずから慰める。 暝:日が暮れる;
盁:満ちる; 醉起:酔いから醒める;
溪月:月光が射している谷川;

<現代語訳>
 自ら慰める
お酒を頂いていて、日が暮れたことにも気がつかずにいたが、
着ている衣服には散った花びらがいっぱい落ちていた。
酔いから醒めて 月あかりの下 谷川のほとりを散策すると、
鳥はすでに塒に帰って静かで、人影もまたほとんど見当たらなくなっていた。
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上記の詩がいつごろの作かは不明のようです。“暝”、“落花”、“(鳥)還”、“(人)稀”等、“陰”の要素を持つ用語が多用されていることから、晩年の作かと想像されます。

すなわち高力士の讒言に遭い、宮廷詩人の座を追われ(44歳)、その後放浪の旅を続けます。さらに安氏の乱(755)後、廬山に滞在していた李白は、勤王の目的で立ち上がった江陵の永王(李璘)の招きで、永王軍の幕僚となります。

永王の動きは反乱と見做されて、幕僚であった李白は捉えられて夜郎(現貴州省北部)へ流罪となる。しかし旧友らの助命の嘆願が入れられて、配流の途上、釈放されます(閑話休題37他)。

高い志を持して故郷を飛び出して来たであろう李白にとっては、晩年におけるこのような境遇の変化は、気持ちを“陰”とする要因であったのではなかろうか。この詩が晩年の作であろう と想像する所以です。

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