愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題401 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (十七帖 絵合)  

2024-04-29 09:26:19 | 漢詩を読む

十七帖の要旨】朱雀院は、故六条御息所の遺児・前斎宮が斎宮として伊勢に下る時から、彼女に心を寄せていた。朱雀院は、譲位に伴い上京した前斎宮を妃に望むが叶えられず、前斎宮は、源氏と藤壷入道の画策により、現・冷泉帝に入内する。

 

入内の当日、朱雀院から、御衣服、櫛の箱、香壷の箱など素晴らしい贈り物が届けられた。櫛の箱は繊細な技巧でできた立派な品で、挿し箱の入った小箱には、造花の飾りに歌が添えられてあった:

 

  別れ路に 添えし小櫛を かごとにて 

    はるけき中と 神やいさめし (朱雀院)  

 

朱雀院は、斎宮の伊勢下向の折りに小櫛を挿しながら、「京に帰るな」と言ったことで、神は、二人は縁無きものと決めたのだよ」と恨みごとを歌っているのである。

 

前斎宮は、思い悩み返歌に逡巡しているが、周りから促されてやっと返歌を書くことができた。前斎宮は、冷泉帝に入内します。

 

帝には既に権中納言(曽ての頭中将)の娘・弘徽殿女御が入内していて、帝の寵は弘徽殿女御に傾いていた。しかし絵を好む冷泉帝は、絵に堪能な斎宮女御に惹かれていく。

 

焦った弘徽殿女御の父・権中納言は当代一流の絵師たちに命じて趣向を凝らした絵を描かせる。一方、源氏は、紫の上とともに秘蔵の絵を集める。3月には藤壺入道の御前で、前斎宮 対 弘徽殿女御の間で絵合わせが行われ、最後に提出された源氏自筆の須磨の絵日記の絵によって、斎宮女御側の勝利となった。

 

本帖の歌と漢詩:

ooooooooo  

  別れ路に 添えし小櫛を かごとにて 

    はるけき中と 神やいさめし (朱雀院 十七帖 絵合) 

 [註] 〇かごと:口実。 

 (大意) あなたが伊勢へ下向する際 お別れの櫛を挿しましたが それを 

  口実にして 神は二人を縁なき間柄とお決めになったのでしょうか。 

xxxxxxxxxxx   

<漢詩> 

   神勧告       神の勧告(イサメ)   [下平声一先韻]

君往伊勢前, 君 伊勢に去(ユ)くに前(サキダ)ちて, 

把梳添髪鮮。 梳(クシ)を把(トッ)て髪に添えるに鮮(アデヤカ)なり。

以斯神勧告, 斯(ソレ)を以て 神は勧告(イサメ)るに, 

終是杳然緣。 終(ツイ)には是(コ)れ 緣(エニシ)杳然(ヨウゼン)ならんと。

 [註] 〇勧告:諫める; 〇杳然:はるかに遠いさま。

<現代語訳> 

 神の勘違い 

君が伊勢へ発つに先立って、

小櫛を髪に挿してやった、その姿は、艶やかであった。

これを以て、神様は諫めたのであろう、

二人の縁は遥かに遠く離れてあれと。 

<簡体字およびピンイン> 

 神劝告        Shén quàngào 

君往伊势前, Jūn wǎng yīshì qián,       

把梳添发鲜。 bǎ shū tiān fā xiān.  

以斯神劝告, Yǐ sī shén quàngào,  

终是杳然缘。 zhōng shì yǎorán yuán.   

ooooooooo   

 

朱雀院の贈り物に添えられた歌に対して、想い定まらず返歌を書くのに逡巡していた前斎宮は、あの時の言葉も今では却って悲しく感じられます と院の愛着を撥ね退けようと精一杯にこれだけ書いた:

 

別るとて はるかに言ひし ひと言も かへりて物は 今ぞ悲しき (前斎宮)

 (大意) 曽てお別れに際し 黄楊の櫛を挿し、「京には帰るな」と言われた 

  一言も 帰京した今は却って悲しく思われます。 

 

以後、院の表情には、失恋の深い苦痛が現れ、いっそう前斎宮を恋しく思うようになった。

 

【井中蛙の雑録】

○ 十七帖 絵合の光源氏 31歳の春。

 

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閑話休題400 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (十六帖 関屋)

2024-04-22 09:27:44 | 漢詩を読む

十六帖の要旨】源氏は、明石から帰京した翌年の秋、願ほどきに石山寺に詣でます。一方、夫・伊予介の転任に伴い常陸の国へ下っていた空蝉は、夫の任期が終わって東国から都へ向かっていた。その途中、逢坂の関で偶然に源氏の行列と空蝉は行き合わせます。帰京した源氏は、早速、空蝉の弟・小君(現衛門佐)を介して、空蝉に歌を贈ります:

 

  わくらはに 行き逢うみちを 頼みしも 

     なほかいなしや 塩ならぬ海  (源氏 十六帖 関屋)  

 

その後、夫と死別した空蝉は、義理の息子から言い寄られ、困惑の末、誰にも相談することなく出家して尼になります。

 

歌と漢詩

ooooooooooooo  

わくらはに 行き逢うみちを 頼みしも  

  なほかいなしや 塩ならぬ海  (源氏 十六帖 関屋)  

 [註] 〇わくらは(わくらば):偶然に、まれに; ○逢うみち:近江路の掛詞;

  〇かいなし:貝(甲斐)がない、掛詞; 〇塩ならぬ:塩(縁)のない、掛詞。 

 (大意) たまたま貴女と行きあったのが近江路とは、その「あふ」という言葉

  を頼みにしておりましたのに、やはり甲斐のないことでしたね。

  塩のない海・琵琶湖には貝は住んでいないから。  

xxxxxxxxxxxxxxx   

<漢詩> 

   錯過去      錯過去(スレチガ)いぬ   [上声十賄韻]

偶逢機会近江路, 偶(タマタマ)逢う機会あり近江(オウミ)の路, 

唯憑字逢青眼待。 唯(タ)だ逢の字を憑(タノミト)して 青眼に待つ。 

何若無效空度日, 何若(イカン) 效(カイ)無く空しく日を度(ワタ)り, 

却懷琵琶無塩海。 却(カエ)って懷(オモ)う琵琶(ビワコ)は無塩の海と。 

 [註] 〇錯過:すれ違う; ○近江路:“逢う路”の掛詞; 〇憑:頼みとする;

  〇青眼:好意的に、魏の文人・七賢の一人・阮籍(ゲンセキ)は、自分の気に

   入らない人物は白眼で睨み、好ましい人物は青眼(黒目)で迎えたという

   故事から; 〇無塩海:塩気(縁)のない海で貝(甲斐)がない。   

<現代語訳> 

 擦れ違いで逢えず 

偶然にも逢える機会があった近江路、

唯 逢の字を頼みにして、期待の意の心をもって待っている。

どうしたことか 効はなく、空しく日を過ごすことになった、

却って思う、琵琶湖は塩のない海で、貝がないのだ。

<簡体字およびピンイン> 

 错过去           Cuò guòqù

偶逢机会近江路   Ǒu féng jīhuì jìnjiāng lù,     

唯凭字逢青眼待。 wéi píng zì féng qīngyǎn dài.   

何若无效空度日, Hé ruò wúxiào kōng dù rì, 

却怀琵琶无盐海。 què huái pípá wú yán hǎi

ooooooooooooo   

 

今なお、矜持を崩さない空蝉ではあったが、久しぶりに得た源氏から贈られた文字に思わず本当の心が引き出されたようで、つぎの返歌を送った。“夢のような気がいたしました”と添え書きして:

 

    逢坂の 関やいかなる 関なれば 

       しげき嘆きの 仲を分くらむ  

  (大意) 逢坂の関とは一体どんな関だと言うのでしょう、こうも深い

    嘆きを味わわせて、私たちの仲を割いている。 

 

【井中蛙の雑録】 

○ 十六帖 「関屋」での光源氏 29歳の秋。

○ 令和の今日、琵琶湖には在来の貝類66種が知られていて、約半数が琵琶湖固有種であるという。当時は、海水のない所では“貝”はいないと考えられていたのでしょうか? 

○ “行き逢うみち”:近江路、逢う; “かいなし”:貝、海、甲斐、効; “塩ならぬ”:塩、縁 等々、掛詞がふんだん。

 

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閑話休題399 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (十五帖 蓬生)  

2024-04-15 09:29:50 | 漢詩を読む

十五帖の要旨】源氏が須磨や明石を流浪し、都をはなれていた頃、ほぼ10年が経過し、忘れ去られた末摘花の暮らしは困窮を窮めていた。故常陸の宮邸は荒れ果て、庭は浅茅の原となり、生い茂った蓬が木にも届く高さとなっている。召使たちも次々と去っていく中、末摘花は源氏を待ち続ける。源氏は帰京後も姫を訪れる気配はなく、姫は絶望しつつ独り冬を越そうとする。 

 

今は身を落として受領・大宰の大弐(ダザイノダイニ)の妻となっている末摘花の叔母が、夫の任地大宰府への下向を機に、末摘花を自分の娘たちの養育係として同道することを持ちかけるが、末摘花は諾(ウベナ)いません。如何に荒れた邸に住もうとも、身分の低い受領の娘どもに仕えることに、自尊心が許さないのです。

 

初夏、花散里を訪ねる道すがら、源氏は、荒れた大木が森のような邸の前に来た。高い松に藤がかかって月の光に花のなびくのが見え、風と一緒にその香りが懐かしく送られてくる。見たことのある木立ちだと思うと、以前の常陸の宮の邸である事に気づいた。末摘花の事を思い出し、早速訪ねていき、長年の積もる話を交わし、歌の贈答を行う。源氏が末摘花に贈った歌:

 

  藤波の 打ち過ぎがたく みえつるは 

    まつこそ宿の しるしなりけれ (源氏) 

 

源氏は、親しい家司に命じて邸内の修理・整備の差配をさせた。邸は、見違えるほどに変わり、活気を取り戻した。末摘花は二年ほどこの家にいて、後に源氏の住む二条東院に引き取られた。

 

本帖の歌と漢詩:

ooooooooo   

藤波の 打ち過ぎがたく みえつるは   

  まつこそ宿の しるしなりけれ  (源氏) 

 [註] 〇まつ:松と待つの掛詞。 

 (大意) 松の木に藤の花がかかっていて素通りできなかったのは やはり

  その松が私の来訪を待つしるしになっていたからなのでした。  

xxxxxxxxxx  

<漢詩> 

   訪老情人     老情人を訪ねる     [上平声十灰韻] 

藤花掛松樹, 藤花 松樹に掛かりてあり, 

非訪不可哉。 非訪(タズネザル)は不可ならん哉(カナ)。 

因久無訪問, 久しく訪問無かりしに因(ヨ)り, 

知君等我来。 君 我の来るを等(マツ)と知る。 

<現代語訳> 

  昔の恋人を訪ねる 

美しい藤の花が松の木に掛かっているのが見える、

素通りするわけにはいかないよ。

久しい間 訪ねて来ていない故、

きっと私の来訪を待っているよと知らせているのだ。 

<簡体字およびピンイン> 

 访老情人      Fǎng lǎo qíngrén  

藤花挂松树, Ténghuā guà sōngshù,  

非访不可哉。 fēi fǎng bù kě zāi

因久无访问, Yīn jiǔ wú fǎngwèn, 

知君等我来。 zhī jūn děng wǒ lái.   

ooooooooo   

 

「数えて見れば随分長い月日ですね。心に沁みる事柄もいろいろありました。また悲しい旅人だった時代の話も語り聞かせに来ましょう。あなたもどんなに苦しかったか辛苦のことども、私より他誰に聞いてもらえることでしょう」などと源氏がいうと、末摘花は低い声で次のように切り返えした。

 

年をへて まつしるしなき わが宿を 

   花のたよりに すぎぬばかりか (末摘花)

 (大意) 長年待っていてもそのかいがなかったわが宿を、藤の花を見る  ついでに立ち寄っただけだったのでしょうか。 

 

源氏は、末摘花が以前より大人っぽくなられた と感じた。

 

【井中蛙の雑録】 

・十五帖 「蓬生」での光源氏 28~29歳。

 

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閑話休題398 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (十四帖 澪標)

2024-04-08 09:18:46 | 漢詩を読む

本帖の要旨】都へ帰った源氏は、須磨で夢に現れた故桐壺院のことが気がかりで、十月に菩提を弔うために追善の法華八講(ホッケハッコウ)を行った。翌年二月、春宮(実は源氏の子)が、十二歳・元服を機に朱雀帝は譲位し、冷泉帝として即位する。まぶしいほどの美を備え、源氏と瓜二つ と世間では褒めるが、噂を耳にするたびに、藤壺は人知れず心労を覚えるのであった。源氏は内大臣に、宰相中将は権中納言に、63歳の前左大臣も政界に復帰して摂政太政大臣にと、それぞれ出世した。源氏と葵の上との息子夕霧も殿上している。再び源氏の一門に栄華がやってきた。

 

三月半ばには明石の上が姫君を出産されたので、源氏は乳母を選んで明石へ派遣する一方、紫の上に明石の上との一部始終を打ち明ける。源氏の話を聞き、率直に嫉妬の感情を表す紫の上の姿を、源氏は好ましく感じた。

 

その秋、源氏は願いが叶えられたお礼に住吉大社に詣でます。飾り立てた従者や樂人を従えた壮麗な行列であった。偶然に、ちょうど明石の父娘も来合せていた。毎年恒例にしていた参詣なのである。

 

明石の君は、源氏との圧倒的な身分差を見せつけられた思いで、自分が惨めに思えた。貧弱な御幣では神様の目に届くこともなく、帰ってしまうこともできない、今日は浪速へ舟を回し、祓をするがよいと、そっと住吉を去った。翌日、吉日であったから改めて住吉へ行って御幣を奉った。源氏は、後にそのことを惟光から知らされて気の毒に思い、

 

   みをつくし 恋ふるしるしに ここまでも 

     めぐり逢ひける 縁は深しな 

 

と明石の上に文を送った(大意および漢詩は後述)。明石の上は、源氏の思い遣りに涙して返歌します。

 

帝の代替わりに伴い、六条御息所は、斎宮として伊勢に下っていた娘共々帰京した。御息所は、長患いに出家していたが、娘の後事を源氏に頼んで亡くなります。源氏は、好き心を抑えて後見を誓った。朱雀院は、この前斎宮を女御にと所望するが、源氏は藤壺と相談し、冷泉帝の許への入内を画策する。源氏と藤壺は、息子・帝の後宮運動を親身になって相談する間柄になっているのである。

 

歌と漢詩:

ooooooooo   

みをつくし 恋ふるしるしに ここまでも 

  めぐり逢ひける 縁は深しな  (源氏 十四帖 澪標) 

 [註] 〇みをつくし:「澪(ミオ、水路)つ串(クシ)」で、“つ”は助詞“の”の意、

  澪にくいを並べて立て、船が往来する時の目印とする。和歌では

  “身を尽くし”との掛詞。 

 (大意) 身を尽くしてあなたに恋していた徴(シルシ)でしょう、難波の江で

  巡り逢えたのも、あなたと私の縁が深いということですね。

xxxxxxxxxx  

<漢詩> 

   憶深緣         深い緣(エニシ)を憶(オモ)う   [下平声一先韻]  

尽身心眷眷, 身を尽(ツク)し 心 眷眷(ケンケン)たりて,

標記此顕然。 標記(シルシ) 此(ココ)に顕然(ケンゼン)せしか。

不意難波畔, 意(オモワ)ず 難波(ナニハ)の畔(ホトリ),

相逢豈非緣。 相逢(アイアウ) 豈(アニ) 緣(エニシ)に非(アラザラン)や。

 [註] ○尽身:一身を捧げる; 〇眷眷:恋焦がれるさま、思い慕うさま;

  〇標記:徴、標; 〇顕然:明らかに。

<現代語訳> 

  深い縁(エニシ)を憶う  

一身を捧げて 心は君に恋焦がれており、 

その徴は ここに明らかに現れた。 

思いも寄らなかったが、難波江(ナニワエ)のほとりで、

相まみえたことは、二人の間の深い縁によるのだ。

<簡体字およびピンイン> 

  怀深缘       Huái shēn yuán 

尽身心眷眷,  Jǐn shēn xīn juàn juàn, 

标记此显然。  biāojì cǐ xiǎnrán.  

不意难波畔,  Bù yì nánbō pàn,  

相逢岂非缘。  xiāng féng qǐ fēi yuán.  

ooooooooo   

 

明石の上は、身分差を思い、やはり慎み深く一歩引いた態度をとります。源氏の歌に対する明石の上の返歌:

 

数ならで なにはのことも かひなきに

  何みをつくし 思い初めけん  (明石の宮) 

 [註] ○なには:「難波」と「何は」の掛詞。 

 (大意) 人数ならぬわたしの身の上 難波江で逢えたことも含めて、どうせ

  甲斐ないこの世なのに どうして身を尽くして(あなたに)恋してしまった

  のでしょう。

 

【井中蛙の雑録】 

・十四帖 「澪標」での光源氏 28~29歳。

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閑話休題397 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (十三帖 明石)

2024-04-01 09:25:59 | 漢詩を読む

【十三帖の要旨】須磨で逢った嵐はなかなか止まない。落雷で廊が焼け、源氏は調理場に避難し一日中念仏を唱え、住吉社に祈った。明け方疲れ果ててまどろんだ源氏の夢に故桐壺院が現れ、住吉の神の導きに従ってこの地を去るようにと告げられる。

 

紫の上の便りでは、都でも悪天候が続いているという。故院は、都の朱雀帝の夢にも現れ、憤怒の形相で朱雀帝をにらみつけた。それ以来、帝は眼を患う。そのうちに右大臣が亡くなり、弘徽殿の女御も病に倒れる。

 

須磨では故院の夢を見た翌朝、明石の入道が住吉の神のお告げだとして、源氏を迎えに来る。舟は順風で早々に明石に着いた。源氏を迎えた明石の入道は娘を大事に育てつゝ、彼女の出世を願い、都人に縁づけたいと住吉社に祈願してきたと話し、娘を源氏に紹介する。

 

以後、源氏は入道の娘に度々文を送るが、娘は容易に返事を書かなかった。娘は、返事を書くのが恥ずかしいのと、源氏の身分、自己の身分の比較される悲しみを心に持っていて、返事を書けないでいた。

 

父の入道に責められて、娘はようやく文を源氏に書き贈った。源氏の度重なる文に対して、「私を想っているというお心のほどは さあどんなものでしょうか まだ逢ったこともない人のことを噂だけで悩むものでしょうか」(歌と漢詩は後述)と体よく歌で切り返しています。

 

書き方も京の貴女に劣らない程上手で、源氏はこの文を見て、明石の君の教養が都の立派な女性にも劣らないと感動して、歌を贈り続けます。両人は八月に初めて契り、明石の君は懐妊する。

 

凶事が続く都では源氏を呼び戻すことを決め、召喚の宣旨を下し、源氏は朱雀院の命で突然都へ召喚される。源氏は御子を宿した明石の君を残し、別れを惜しみ、都へ戻るのでした。

 

ooooooooo   

思ふらむ 心のほどや やよいかに  

   まだ見ぬ人の 聞きかなやまん  (明石の君 十三帖 明石) 

  [註] 〇やよ:やあ、おい、さあ(呼びかけるときに発する語)。  

 (大意) 私を想っているというお心のほどは さあどんなものでしょうか

  まだ逢ったこともない人のことを噂だけで悩むものでしょうか。 

xxxxxxxxxx  

<漢詩> 

   問真心話   真心話(マゴコロ)を問う    [下平声五歌韻] 

君道苦於恋, 君は道(イ)う 恋に苦しむと、

但疑深幾何。 但(タ)だ疑う 幾何(イカホド)の深さかと。

只憑世閑話, 只(タ)だ世(ヨ)の閑話(ウワサバナシ)だけに憑(タヨ)り、

猶是未逢過。 猶を是(コ)れ 未(イマ)だ逢過(アッタ)ことなきに, 

 [註] 〇憑:頼みとする; 〇閑話:むだばなし、噂。   

<現代語訳> 

 真心の程を問う 

貴方は 私を想っていると仰るが、 

どの程度のことか知れたものではない。 

ただ世間の噂話だけを頼りにしていながら、 

なお未だ逢ったこともないと言うのに。 

<簡体字およびピンイン> 

  问真心话     Wèn zhēnxīn huà    

君道苦于恋, Jūn dào kǔyú liàn,  

但疑深几何。 dàn yí shēn jǐ.   

只凭世闲话。 Zhī píng shì xiánhuà.  

犹是未逢过, yóu shì wèi féng guō, 

ooooooooo   

 

【井中蛙の雑録】 

・NHK大河ドラマ『光の君へ』は弥々佳境に入りつゝあります。ところで、題の『~ へ』とは、“捧げる”または“伝える”等々の相手を指すと思えるが。題中『光の君』とは?“まひろ”、“道長”、“源氏物語中の光源氏”、……?。筆者は、目下、捕らえ兼ねています。

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