試してみよう!! からだの初期化

健康の維持・増進を図るための偏りのない、理想的な運動法を素人なりに考えていきます。

からだの初期化を試みよう 39 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-4

2016-05-22 16:57:34 | 認知能
運動と記憶・学習などの認知能とを結び付ける材料のひとつとして脳由来神経栄養因子 (BDNF:Brain-derived Neurotrophic Factorの略)について触れます。

キャンバスに花の絵を描くとします。その花にミツバチまたはチョウが一点加わると、画竜点睛とまでは行かなくとも、絵が一段と映えるように感じられます。

ちょうど今の時期、公園や街路の花壇などに色とりどりの花が開いています。朝日が差す頃、ミツバチやチョウが開いたばかりの花から花へと飛び移っては蜜を吸っている情景が目にとまります。


写真 ブラックベリーの花 蜜を吸うミツバチ(’16.5.18撮影)

蜜を吸うミツバチやチョウは、言わずもがな、花から蜜を吸う代償に花の受粉を媒介して、結実するのを助けているのです。脳由来神経栄養因子(BDNF) は、正にこのミツバチやチョウと同じように、脳の‘成長’を助ける先導役の役割を果たしていると考えてよいでしょう。その運動との関わりについての筋書きは、追々触れていくことにします。

動物・植物を問わず、生物が外界の変化の刺激に対して反応する場合、生物の体内での情報のやり取りには、ほとんどの場合、“化学物質”が重要な役割を果たしていると言ってよいでしょう。

端的な例ではホルモンが挙げられます。動物・植物ともに、生後または出芽後、年を経るにつれて成長していきます。また日常、動物で身体のどこかが傷つけられた場合、傷口に白血球を呼び寄せて殺菌の働きをさせる、また傷口の修復を促す等々、すべてそれぞれの役割を担ったいろいろな化学物質からなるホルモンが関わっています。

神経系の働きも同様です。例えば、足でオシピンを踏んだとします。直ちに‘痛い’と感じて声を挙げるとともに、即座に足を引っ込めて、難を避けます。‘痛い’と感ずるのは、脳であり、足を引っ込めるのは、脊髄を介する反射運動です。

足から脊髄や脳まで求心性に情報を伝え、一方、脳から‘痛い’と声を発し、また脊髄から足を引っ込めるよう遠心性に情報を伝えているのは神経の役割です。求心性、遠心性を問わず、神経系では、次々と複数のニューロンをつないで情報を伝えていきます。ニューロンとは、一個の神経細胞とそれから伸びている神経線維(軸索)からなる神経単位を言います。

神経線維では、その末端まで電気信号として非常に速い速度で情報を伝えていき、次のニューロンへ情報を受け渡していきます。次のニューロンへの情報の受け渡しには‘神経伝達物質’と通称されている化学物質が関わっています。

このような情報を伝える仕組みには、末梢神経系や脳・脊髄内の中枢神経系ともに違いはなく、電気信号と神経伝達物質が主役を演じています。ただ、神経伝達物質の種類が、からだの部位により異なること、および神経繊維が末梢では非常に長いが、脳内では非常に短いという違いはありますが。

脳は、無数と言えるほど(140億個以上?)の数のニューロンがぎっしりと詰まっていて、ネットワークを構成した集合体です。その‘つくり・構成’については稿を改めて触れることにします。

ここで注意を向けたいのは、神経伝達物質とは別に、脳の‘つくり’と関わりのある化学物質が脳内で生成・分泌されていることです。このような化学物質が複数発見されていますが、その一つが脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれている物質で、一種のタンパク質です。

脳由来神経栄養因子(BDNF)について注意を惹かれる所以は、それが特に海馬や大脳基底核、大脳皮質などに多く含まれていることです。これらの部位は、前回ちょっと触れたように、学習や記憶などに関わる脳の特殊な部位です。

特に、脳由来神経栄養因子(BDNF)は、神経細胞の発生、成長を促し、またニューロン同志のつながりを促すなど、脳の‘つくり’、すなわち、インフラの構築、維持に関わっていることが明らかにされています。

かつて、脳内の神経細胞の数は生まれた時に決まっていて、その後は加齢とともに減少していき、増えることはないと考えられていました。それがこれまでの常識でした。しかし脳内でも新しい神経細胞が生まれていき、補充されているということが新常識になりつつあります。

過去の常識を覆すであろうきっかけとなった第一歩の発見は、別の分野の研究から得られたのでした。がん患者では、細胞分裂を起こしていて、増殖中の細胞の広がりが調べられます。増殖細胞を調べるには、ある標識色素を用いて染色する技術が応用されています。

増殖細胞の広がりを調べるために、生前にその技術を応用して標識色素を投与していたがん患者で、亡くなった後に脳組織を調べたところ、海馬を含めて脳組織が染色されていることが判ったのです。つまり脳細胞が増殖していることを示す驚きの知見でした。その報告は1998年に発表されています。

一方、脳内には‘神経幹細胞’と呼ばれる未分化の細胞があることはかつて知られていました。未分化とは、まだ神経細胞としての機能を持たない、言わば、卵の状態の細胞と言えるでしょうか。脳由来神経栄養因子(BDNF)は、それら未分化の‘神経幹細胞’を新しい神経細胞に分化、成長させることが判っています。

というわけで、脳由来神経栄養因子(BDNF)は、海馬などの脳部位で「脳の‘つくり’」を促すように働き、学習・記憶、ひいては認知能を高めるであろうことを想像させてくれます。脳由来神経栄養因子(BDNF)は、まさに先に挙げたミツバチやチョウが花の受粉・結実を助けているという役割と重なってきます。

本項での興味の対象は、運動と脳由来神経栄養因子(BDNF)、さらに認知能との関係ですが、その前に、脳の‘つくり’、脳内ネットワークについて触れます。脳内ネットワークと絵が描かれていくキャンパスが如何ように関連付けられるか、続いて思いを巡らしていきます。
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からだの初期化を試みよう 38 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-3

2016-05-08 15:00:08 | 認知能
“記憶”に関わる“脳”と“キャンバス”の関連を単純化した形でその概要をまず明らかにしておきます。“キャンバス”は、“脳”そのもの、つまり“ハード”に当たり、 “記憶の中身”は、“情報またはデータ”に当たります。

“記憶”とは、“情報”を“覚えこみ(取り込み)”、“脳内に保持”しておき、必要に応じて“再生/想起”する、一連の過程を言います。さらには、新しい情報に接したときに、すでに保持されている情報と同じであるかどうかを判断する“再認”の過程も含めています。

情報を取り込み、脳内に保持するまでの間は、“知識の獲得過程“、すなわち“学習する”ことであり、“キャンバスに絵を描く”過程に相当するとします。得られた情報は分析・整理されて脳内に保持(固定)されますが、ここでは描き込まれたキャンバスが分析・整理されて保存されるものと考えます。

ここで我々が日常おぼろげながら話題にしている “記憶”について、その種類を整理しておきます。我々が日常関心をもっているのは次に挙げる3種類の“記憶”でしょう。

普通に“記憶”と言ったとき、まず学校時代を通じて、覚えるよう努力を強いられた事柄の記憶が思い浮かびます。学校で学ぶような世界のどこででも通用する知識に関するものです。リンゴは赤いとか、あるいは英単語や歴史上の事件とその発生年代 等々、ある事象の意味に関わることです。このような事柄の記憶は“意味記憶”と分類されています。

二つ目は、個人の“思い出”に関わることで、各人が経験・体験を通して得た情報の記憶です。これは“エピソード記憶”と呼ばれています。これは一回の経験・体験でもしっかりと記憶に留められていて、いつ、いかなる状況でどのような経験・体験をしたか、かなり期間経過したのちでも、鮮明に思い出すことができるという特徴があります。

これらの意味記憶とエピソード記憶は合わせて“陳述記憶”と呼ばれることもあります。

見知らぬ土地、例えば海外の土地事情について、書物を熟読して得た知識は比較的に早く忘れるものですが、一度その土地を訪ねて体験するならば、そこで得た知識は長期間しっかりと記憶に留めることができます。前者は意味記憶であり、後者はエピソード記憶に相当するでしょう。記憶という面で見ても、「百聞は一見に如かず、一見は一試に如かず」ということです。

年輪を重ね、中年を過ぎた頃から、過去にかなり親しく交際していた人であれ、久しぶりに会ったとき、「顔は思い出しても、名前が出てこない」ということはよく経験することです。名前は“意味記憶”として、また顔の輪郭を含めたかつての面会体験は“エピソード記憶”として、別々の処理が行われ、保存されているということでしょうか。

今一つ、“意識に上らない記憶”で、“手順記憶”と分類されている記憶があります。もっとも身近な例では、自転車乗りの技術です。こどもの頃に覚えた自転車乗りの技術は、何十年経っても忘れることはなく、しっかりと乗りこなすことができます。諸種のスポーツ競技の熟練した技術は、この範疇に入ります。よく「からだで覚える」と言われますが、それがこの記憶に当たるでしょう。

ピアノの演奏技術もその例です。学習当初は、どの指で白鍵あるいは黒鍵を….と考えながら学習していきますが、習熟するうち、手指が無意識のうちに動くようになるようです。熟練者では自然に、神業と思えるスピードで手指や足が動き、快い曲を奏でます。

学習、記憶、さらに“再生/想起”が脳内でどのよう過程で進められているのか?非常に関心は高いのだが、その仕組みの理解は容易ではなく、やはりブラックボックスと言ってよい。記憶の種類や記憶が成立する過程での時間経過などにより、脳内の特定部位間で複雑なやり取りが行われているようです。

ブラックボックス内をちょっと覗いてみます。外から五感を通じて脳内にもたらされた情報は、その内容によりそれぞれ次のような特定の部位に伝えられて、処理されることになります。ただし、名称を挙げた部位のみに限られるのではなく、多くの部位の関与が研究されています。

陳述記憶に関して最も注目され、研究対象とされている部位は、海馬体と言われているところです。ここを中心にして大脳皮質連合野との間で情報のやり取りが活発に行われ、分析・整理が行われている。特にエピソード記憶の場合は、最終的に大脳皮質連合野に移されて、そこで半永久的に固定・保持されるもののようです。

一方、手順記憶では、情報のやり取りは主に大脳皮質運動野・大脳基底核・小脳の間で行われているとされています。中でも、小脳は、からだの平衡、姿勢と運動の制御に強い関わりを持つところです。

さて、認知能を考える上で、最も高い関心を持たれているのは“意味記憶”でしょう。覚えこんで記憶として保持する能力、さらには、記憶を再生/想起する能力が、年齢とともに低下していくからです。以後、主にこの意味記憶と運動の関わりを見ていきます。

従来は、運動は、主として体力を高めるという面から捉えられてきました。しかし近年、運動は、体力を高めるばかりでなく、意味記憶に関する記憶力にもよい影響を与えるということが喧伝されるようになりました。

前回、取り上げた米国シカゴの中・高校での試みは、青少年期での意味記憶に関わる記憶力を高めることを示唆した成績と言えます。最近の研究では、運動することにより高齢者において認知能が低下していくのが抑制され、または低下した認知能が改善されたとする成績も報告されています。

“運動”によって、脳機能と関わるどのような変化が体内で起こっているのか?またそのような体内の変化がどのように脳機能に関わっているのか? “運動”と“記憶力”とを結びつける様式を“キャンバス”に描けることができるならば と挑戦していくつもりです。

続いて、絵を描くための材料について触れていきます。
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