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ミーチャム師の祝辞は、ブース校長の掲げる女子教育の高い理想に共鳴し、その精神を力強く鼓舞するものであった。
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続いて祝辞を述べたのは、三島教会の伊藤藤吉牧師であった。
ジェームズ・H・バラ師の要請に応えて1871年(明治4年)に来日した3人の女性宣教師、ミセス・プライン、ミス・クロスビー、 ミセス・ピアソンが山手48 番に開設したアメリカン・ミッ ション・. ホーム(後の共立女学校)に住み込みで働きながら英語を学んだという経歴の持ち主である。
英語を身に着けるうちに、やがてキリスト教の感化を受けて築地の一致神学校に通い、現在、三島教会の牧師となったこの人物は、かつての記憶をたどりつつ聴衆に語りかけた。
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約20年前、私はこの場所にいました。
そこは草木の覆い繁る荒れた土地でした。
当時はこの場所が、現在私たちが眼にしているような栄えある教育機関になろうとは思いもしませんでした。
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およそ20年の間の時間の流れと変化を思うこの瞬間、私は喜びに打ち震えます。
その喜びの度合いは皆さま全員にはおわかりいただけないかもしれません。
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しかしここでいう変化というものは、ごく表面的なものです。
不毛な土地は、その上に大きな建物を建てるだけでは豊かな土地にはなりえません。
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素晴らしい建物、完璧な教育システム、満室の寄宿舎、教養に満ちた経験豊かな教師をそろえただけでは、この地をいささかも高みに上げることはできません。
多くの敬虔な女性がここで教育を受けて、神と共に歩み、日本のために貢献するようにならない限りは。
それこそが、私たちの期待する成果です。
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道徳的宗教的な性格を持たない教育はサタンの業を成すための機械でしかないことは、先ほどミーチャム師が考察された通りです。
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ここにお集まりの皆さまと同じ望みを有していると私は信じ、それをここで申し上げます。
私の真の望み、すなわちこの学校が(すでにこれまでにしてきたように)将来にわたって、キリスト教の活動を行うに十分な資質を有する、敬虔かつ知性に溢れた女性の集団を育てねばならないということです。
そうなることによって、真の意味で、この荒れ果てた地面が肥沃な土地となり、豊かな実りをもたらしたと得るようになるのです。
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学校幹事を務める古荘三郎教諭が続いて挨拶を述べた。
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私は本日二つの関係からここに立っております。
ひとつは日本側の代表として、もうひとつには本校の教員の代表としてであります。
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まず日本側の代表としては、私は日本の女子高等教育への関心とお働きについて米国改革派教会の宣教師の方々に感謝申し上げます。
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次に教員の代表として、お集まりの皆さまにお願いしたいことがあります。
それに先立ってまず女子教育一般について少し話をすることをお許しください。
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さて、皆さまにお聞きしたいのは、女性に対して最も寛大な親切さを示したのはだれかということです。
そして社会的に卑しい地位にあった女性たちを立ち上がらせるために最も尽くしたのはだれだったでしょうか。
私の答えはキリスト教国の人々です。
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なぜキリスト教国の人々は女性たちのことをそれほどまでに気にかけてきたのでしょうか。
その理由は簡単にお分かりいただけます。
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創世記I. 27に「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女に創造された」と書かれています。
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キリスト者は聖書を信じ、それゆえに家庭においても社会においても女性に平等な地位を与えます。
それゆえキリスト教の世界では、女性は男性と平等に同じ教育を受けます。
繰り返しになりますが、ものごとの永遠の原理は、私たちに、自然の法則は男性に対してだけではなく、人類に対して明かされていることを知らしめています。
教育なくして、人類はいかにして自然の法則を知ることができるでしょうか。
それゆえに女性も男性同様教育を必要とするのです。
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しかし神の啓示なしに私たちはこの法則を知ることはありません。
仏教や儒教の影響下にある者はそのことに気づいていません。
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しかしながらキリスト者はこの啓示を受けており、それゆえ自国において女性のための学びの機関を作るだけでなく「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」というキリストの教えに従い、外国においてもそのような学校を盛んに設立しているのです。
このホールの存在理由は、そのこと以外にはありません。
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さて外国から来たキリスト者の教師たちの真の動機は何でしょうか。
残念ながら、その目的はキリスト教の教理を教えるだけだと考える人々もいます。
しかしそれは大きな間違いです。
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キリスト者としての動機が唯一だということは認めますが、その一方で、まさにそれゆえに、キリスト教徒である教師たちが真剣に追求している目的、それは第一に人格の基礎となる真の道徳心を養うこと、第二に家庭と社会において責任を果たせるよう実践的な知識を身に着けさせること、第三にこの国の文化発展に向けた役割を果たす女性リーダーを育てることです。
これらが本校の教師たちの偉大な目的です。
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外国の友人たちが、自らの利益のためなどではなく、この学校のために多くを行ってきたように、私たちも全力で彼らを支えることによって心からの感謝を示さなくてはなりません。
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すでにその意志を示している日本人も何名かおられます。
しかしながらまだまだ皆さまの信任と援けが必要されているのです。
それゆえ日本女性のためを思うすべての皆さまに対し、心の内の共感だけではなく、学校への寛大なるご寄付を心からお願いします。
それによって本校は現在も、そして将来にわたって、よくその役目を果たすことができるでしょう。
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アメルマン師が短い言葉を述べて締めくくると、T. H. コルハー師が前に進み、祝祷を捧げた。
そしてドイツ改革派日本ミッションと全ての有志を代表してブース学長が、現在および未来にわたり、これらの教室とホールが日本女性の利益と文化に貢献すると宣言した。
その言葉は古荘氏によって日本語で繰り返された。(続く)
図版:
・布恵利須英和女学校(『女学雑誌』183号 1889年5月)
参考資料:
・The Japan Weekly Mail, July 9, 1887
・The Japan Weekly Mail, June 8, 1889
・『RCA伝道局報告書に見るフェリス』(フェリス女学院、2015)
・『フェリス和英女学校六十年史』(フェリス和英女学校、1931)
・『フェリス女学院100年史』(フェリス女学院、1970)
・フェリス女学院150年史編纂委員会編『近代女子教育新学制までの軌跡』(フェリス女学院、2012)
・メアリー・P.プライン 安部純子訳著『ヨコハマの女性宣教師 : メアリー・P.プラインと「グランドママの手紙」』(EXP、2000)