経済(学)あれこれ

経済現象および政策に関する意見・断想・批判。

参議院の改革についての提案

2012-04-09 02:19:56 | Weblog
 参議院の改革についての提案

 参議院を廃止せよとの声が高まっている。安倍内閣の末期以後、衆院と参院で与野党の勢力が別方向にベクトルをとり、議決に支障をきたすことが多く、政治が進展しないということによる。この問題は、一院制がいいか二院制がいいかという議論に直結する。私は二院制でいいと思う。理由は一院制では政治が不安定になるからである。別の表現を用いれば、一院制はポピュリズムを結果しやすい。なお私は衆議員の定員数を減らす必要はないと思う。衆院という制度自体が、ある種のポピュリズムの制度化なのだ。なら、それを制限するエリ-トの選出機関が必要になる。
参議院の一番の問題点は、衆参両議院ともに、大衆選挙という同じ原理・方法で選出される点にある。諸外国の制度を振り返ってみよう。ここでは英仏米独という一応民主主義が成熟しているとされる先進国のみを取り上げる。
 二院政の嚆矢はイギリス(厳密にはイングランド)にある。13世紀に成立したマグナカルタ以後、大貴族中心に議会が開かれ王権を制限してきた。やがてこの議会から、中小貴族、都市ブルジョア、あるいはジェントリ-という階層が分離し、別の集会を持つようになった。前者が上院の、後者が下院の淵源である。(注1)18世紀に入りウォルポ-ルの議院内閣制が成立するとともに、次第に下院が優勢になり。現在ではほとんどの法案は下院で議決されている。上院は一定の発言力は持つが、むしろ名誉機関としての意味しかない。
 米国はイギリスの伝統を持ち込むが、この国の議会制度は米国特有の状況にさらされる。基本的な対立軸は二つある。米国では各州の独立性が高いために、国家全体の利害を代表するか、地方の利害を代表するかで意見が対立した。現在でもデラウエア州とカリフォルニア州では人口規模が全く異なる。もうひとつの軸は、イギリスと同様で、上流階層の利害かより下層の人民の利害の代表かの問題である。各州と上層階級の利害を代表するのが上院であり、全国民と一般民衆の利害を代表するのが下院である。上院の正式名称はsenate、古代ローマの元老院の名称に由来する。現在ではこの両院の階級的性格は薄れているが、両院の性格の差異は保たれている。上院は外交軍事を取り扱うことが多く、下院は財政問題で発言力が強いようだ。現在の諸国で両院が同程度の発言力を持ち二院制の意味が保持されているのは米国のみであろう。
 ドイツの二院はラ-トハウス(注2)といわれる。発言権は一院にはるかに劣るが、この二院は完全に各州の利益主張の場である。ドイツは伝統的に地方分権制が強い。各州の代表は知事ではなく首相といわれる。
 フランスも二院制に立つ。フランスの二院はたてまえとしては一応地域共同体を代表するとされる。フランスでは中世以来、貴族とブルジョアがごっちゃになって王権の官職に群がりつながり、既得権益を主張し、王権と民意の間に入り、両者の意思の遂行に介入してきた。この種の階層を法服貴族といった。この勢力は革命後も地方の名望家として生き残り、官界に婚姻関係の網を張り巡らせて隠然たる勢力を保持するとされる。フランスの二院はこの勢力の代表であるようだ。
 わが国では議会は自由民権運動の結果明治24年(?)にできた。それまでは藩閥寡頭共和制であった。政府は人民を代表するこの議会の影響力を制限するためにイギリスの上院に習い、国家が任命する議員からなる貴族院を作った。第二次大戦後貴族院は廃止され、代るものとして参議院が作られた。いわばどさくさにまぎれて作られたものだからその性格は曖昧である。戦争直後は参議院は良識の府などと言われ、政党の影響力を排するべく志向されたが、やがて、政党の影響力に巻き込まれ現在に至っている。同じ選出方法に基づくのだからこの推移はやむをえない。かくして参議院は、与党多数では単なる翼賛機関、野党多数では法案審議への抵抗ないし妨害機関となった。存在の意味を問われる由縁はこの辺にある。
 以上の事情に鑑みて私は以下に参議院という制度の根本的改革案を提示する。改革された議院の名称を仮に枢密院としておく。枢密院の定員は100名内外にする。現在の参院の定員の半分以下になる。数を絞り込む。議員選出の原則は、地方(都道府県)代表と、同業団体代表にする。地方での選出は各地方の任意に任せる。議員は各県1名。ただ知事の兼任はよくない。知事は各県の行政に専念すべきである。同業団体代表の選出も各団体に任せる。各団体選出議員数はやはり一名。
 衆院との関係では、衆院通過後の審議権を枢密院に与え、枢密院で否決された議案は衆院に差し戻す。再度衆院で議決されたら、その法案は発効するとする。ただし外交と軍事そして皇室関係の議案と違憲審査では、枢密院に衆院解散の権限を与える。これは首相による解散権とは異なる。
 枢密院議員の在職年限は可及的に長くする。終身では困るが、10から15年くらいの任期が適当であろう。大衆や一般世論の影響に直接さらされることを避けるべきだ。
 枢密院には積極的な議案提出を期待する。同時に民間からの議案提出を受付、それを仲介し審議して、議案として提出する。行政訴訟なども受け付けてもいい。ここでは一部民事訴訟における司法権を代行することになる。司法権のすべてが、裁判所に集中されるいわれはない。政治的色彩の強い事項は枢密院で扱えばいい。枢密院では議案決定権が制限されると同時に、議案審議と議案提出の領域で積極的に活動することが期待される。枢密院は現在議員立法といわれる行為を拡大し制度化する。
 枢密院議員には10名内外の政策スタッフをつける。彼らは秘書ではない。俸給等の待遇、格式は枢密院を上とする。なお首相経験者は自動的に枢密院議員とする。従って首相経験者は両院に席をおくことになる。もちろん枢密院単独属席でも構わない。
 一番の問題は枢密院議員選出母体の決定方法である。地方代表選出は都道府県という自動的な制度に従えばいいのだから問題はない。いかなる同業団体に議員選出資格を与えるかが問題になる。財界ないし産業団体、労組、学者、教育者、メディア、司法、警察、農業団体、官僚、自衛隊、NPO、公務員、芸術ないし芸能、宗教(注3)などなど数え上げればきりがない。決定的な選出方法はない。ただ一定の経過をたどれば、安定した資格団体の決定方法は成立する。枢密院議員の選出時期に際して、どの団体に資格を与えるかは衆院が決定すればいい。決定の基準は、各枢密院議員による法案提出あるいは受付そしてこれらの法案成立の数になるであろう。同業団体(corporation)を制度として取り込むことは、現在実際に行われている圧力団体の行動を制度化することでもある。そして枢密院議員参加の政策スタッフの活動養成は、将来の政治エリ-トの育成のためでもある。
最後に、私はこの枢密院の議長には皇太子ないし彼に代る皇族を当てることを提案する。私は天皇制の積極的支持者であるが、国事行為という儀式の執行の重要性を認めると同時に、現在のような象徴天皇制のあり方には疑問を抱くものである。よろしければ拙著「天皇制の擁護」を参照して頂きたい。

(注1)上院-senate-upper (lord)house
    下院-representative-lower(common)house
(注2)Rat Haus
(注3)私個人としては、産業、学術、教育、司法、労組を重視すべきだと思っている。