廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

800円の傑作

2019年06月08日 | Jazz LP

Tony Scott / South Pacific Jazz  ( ABC-Paramount ABC 235 )


ブロードウェイ・ミュージカル「南太平洋」の音楽を取り上げたアルバムで、トニー・スコットがクラリネットとバリトンを持ち替えながらワンホーンで
見事に仕上げた傑作。 リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタインⅡ世の黄金のコンビなので、音楽の素晴らしさは折り紙付きだ。

とにかく全編がデリケートで丁寧に演奏されていて、ものすごく洗練されていて、優雅な雰囲気に驚いてしまう。 クラリネットは穏やかで典雅で幽玄、
バリトンは従前のイメージを覆すペッパー・アダムス系の骨太さ。 アドリブラインもなめらかで自然でこんなに上手い演奏をするのか、と目から鱗だ。
クラリネットやバリトンは人気がないんだろうけど、まあ、そういう意識は聴いているうちにどこかへと消えてしまうだろうと思う。

バックのトリオの演奏も繊細さも素晴らしく、ディック・ハイマンはピアノとオルガンを効果的に使い分け、ジョージ・デュ・ヴィヴィエのベース、ドラムは
グラッセラ・オリファントとオジー・ジョンソンで分担している。 トニー・スコットの演奏を邪魔することなく、完璧なサポートぶりが素晴らしい。

ABCパラマウントという総合レーベルなので録音やレコードプレスの品質もよく、音質の良さも保証されている。 レコーディング・スタジオ内の雑音のない
静かな空間の中で演奏されている雰囲気がよく伝わってきて、そういう音場感の高級さが素晴らしい。

美麗で洗練されているけれど、実際はどこをどう切っても血の滴るような本格的なジャズであることがわかる。 そういう芯のしっかりとしたジャズを
ゴリゴリのマニアでなくても愉しめるよう絶妙に甘美なコーティングを施して提出出来たところに一流の仕事の痕跡を感じる。 購買意欲の全然湧かない
ジャズらしさを感じないジャケットデザインも、案外意図的にそうしたんだろうなということもわかってくる。

安レコ漁りは単なる安物買いの為だけにやっているのではなく、こういうレコードに出会う為の違いの分かる男の孤独な営みである、ということにしておく。

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2 コメント

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トニー・スコット! (松葉蘭)
2019-06-08 17:01:01
兎角ビル・エバンズとの共演の文脈でしか語られることはないですが、私はジャズ聴き始めの頃にクラリネットが好きになってパーカーイディオムをクラに持ち込んだ奏者としてトニー・スコットを結構熱心に集めた時期があります。この盤はそのクラよりもバリトンの方に味を感じます(B-4)。私も同盤を同額で、九州の田舎町で22年前に購入したと記憶し〼。しかしトニー・スコット盤のレビュー何て中々無いですね。
Unknown (ルネ)
2019-06-08 20:58:13
22年前から800円だったんですね(笑)。気の毒だなあと思います。
仰る通り、バリトンが非常にインパクトがあります。トニー・スコットがバリトンを吹くなんて認識がありませんでしたから、驚きました。
トニー・スコットはなぜか相手にされないですね。なぜだろう?

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