廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

マイルスへの感謝のメッセージ

2019年09月21日 | Jazz LP (Prestige)

John Coltrane / Bahia  ( 米 Prestige PR 7353 )


コルトレーンの演奏力が急にステップアップしたのは1958年頃だと思う。 人気のある "Blue Trane" は57年9月の録音だが、この時の演奏は
それまでのたどたどしさは無くなったものの、フレージングには未熟さが残っていて、脱皮手前くらいの出来だと思う。 ところが58年初夏の頃に
なると出てくるフレーズが急に上手くなり、ワンパターンだった処理の仕方は影を潜め、本当に歌っているような感じになってくる。 そしてその
タイミングでコルトレーンのプレスティッジのレコードはリアルタイムで製作されなくなり、数年後までリリースはお預けになるようになった。
おそらくアトランティックへの移籍話が出始めて、プレスティッジはレコード化を止めていたのだろう。 

やがてコルトレーンはアトランティックで快作を連発するようになり、プレスティッジも慌てて貯め込んでいた58年以降の録音をレコード化して
リリースし始める。 そういう訳でコルトレーンが普通のスタイルで普通の音楽をやっていた一番の名演は、プレスティッジの事後処理的制作の
レコードの中に集約されることになった。 プレスティッジ時代は出来の落ちる頃のレコードばかりになぜか人気が集中して値段が高騰し、
出来のいい時期のレコードはあまり人気が無く、先の物と比べれば値段が抑えられているということになっているのは何とも皮肉なことだ。 

この "Bahia" も "至上の愛" の翌年にリリースされており、58年7月と12月の2つのセッションのコンピレーションという手抜き具合いだから、
誰からも有難がられないレコードになっているが、演奏の素晴らしさは折り紙付きだ。 特に、ウィルバー・ハーデンとのコンビネーションは
抜群に良く、バックもガーランド・トリオでこれ以上はない布陣と言っていい。 

このアルバムのハイライトは "Something I Dreamed Last Night" で、究極のバラード演奏となっている。 マイルスのマラソンセッションでは
吹かせてもらえず、指を咥えて見ているしかなかった悔しさの借りをここで返したのだろう。 マイルスとはまた違うアプローチではあるけれど、
コルトレーン・バラードの完成形がこの時期に出来上がったことがよくわかる。 コルトレーンはこの演奏をマイルスに聴いてもらいたかったんじゃ
ないだろうか。 私はこんなに成長しましたよ、というマイルスへの感謝のメッセージがこの演奏から聴こえてくるような気がする。


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