Stan Getz / Focus ( 米 Verve V-8412 )
エディー・ソーターとは何者なのか。 殆どの人がそういう感じだろう。 私もソーター・フィネガン・オーケストラの名前は知っているけれど、その作品は
聴いたことがない。 ドラムやトランペット奏者としてプロの活動を始めて、スイング時代にアーティー・ショウやベニー・グッドマンに楽曲やアレンジを
提供するようになり、その後は作曲・編曲家として身を立てた。 その道では大家となったのだろうけど、こういうのは日本では最も理解されにくい分野だ。
そういうあまり馴染みのない人が、いきなりこのアルバムで我々の前に立ちはだかる。 冒頭の "I'm Late, I'm Late" の劇的でショッキングなオープニング。
間隙入れずにロイ・ヘインズのドラムが不吉な音で鳴り響き、そしてゲッツがいつになく感情剥き出しなブロウで迫ってきて、聴いているこちらは思わず
背筋が凍り付いてしまう。
ソーターの書いたスコアは決して耳当たりがいいものではなく、聴いている者を不安な気持ちにさせる。 幻想的なバラードも何かを暗示するように
深い霧が立ち込めている。 その中を、ゲッツのサックスはあてもなく彷徨うかのように進んでいく。 我々はその姿を見失いそうになりながらも懸命に
彼の後を追って深い霧の中を彷徨うけれど、いつになったら視界が晴れて目的地に到着できるのかがわからない。 辿り着けそうだという予感すらない。
当たり前のことだけど、これをジャズというフレームの中で評価するのは無意味だ。 どこかにある形而上的な空間の中で何かを暗示し続ける誰かの声、
なんだかそういう感じのものを既存の秤で測ってみてもしかたがない。 「不安」に身を任せられるかどうかを試される、そこが面白い。
だから、このアルバムには中毒的にハマってしまうのだ。
場末の小さな中古店で二千円位で買いました。
このエディー・ソーターのストリングスはまるで切り立った崖のように思われます。
それをぴょんぴょん飛び越えていくようなイメージのスタンゲッツ。
自分でもどこに魅力があるのかわからないまま、このレコードを聴き続けています。
そうですね。中毒です。
ちなみに、ジャケットもそうとうカッコ良いです。
1曲目は崖から突き落とされるような感じで、不思議の国のアリスというよりはヒッチコックの映画みたいな感覚です。
この違和感こそがこのアルバムの正体ですね。