く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<奈良・植村牧場> 創業130年、住宅地で乳牛30頭、お向かいは般若寺!

2014年01月28日 | アンビリバボー

【牧童は知的障害者たち、カフェの店名は河瀬監督が命名し紫舟さんが揮毫】

 奈良市般若寺町にある「植村牧場」は奈良県内最古の牧場。130年前の1883年(明治16年)に創業した。奈良市の〝まちかど博物館〟の1つにもなっている。奈良県庁の東側の通りを北上し、国宝の東大寺転害門を越え、さらに北に進むと左手にあった。周りは住宅街。真向かいはコスモスの花で有名な般若寺で、国宝の楼門がで~んと構える。

 現在の牧場主は4代目の黒瀬礼子さん。病弱だった曽祖父の初代が医者から牛乳を飲むよう勧められ、自ら1頭の乳牛を飼い始めたのが始まりという。牧場の広さは約6000平方メートルで、今も明治時代に建てた木造平屋瓦ぶきの牛舎を使っている。ここで30頭のホルスタインを飼育しており、一番奥には生後3週間余りというかわいい子牛がいた(下の下の写真㊧)。牧場では他にペットとして羊1頭とウサギ3匹も飼っている。

 

 酪農も機械化が進んでいるが、ここでは餌やりから搾乳、牛乳の殺菌、瓶の洗浄、瓶詰めなど作業の大半が手作業で、昔ながらの牛乳づくりの伝統を守ってきた。こうした作業を知的障害を持つ青年たちが支える。職業安定所の紹介もあって約30年前から〝牧童〟として雇用を始め就労を支援してきた。青年たちの多くは住み込みで、日夜ひたむきに働いてくれているという。

 牧場の朝は早い。毎日朝5時と夕方5時の1日2回搾乳する。搾乳量は1日約300リットルで200ccの牛乳瓶に換算すると約1500本。そのほぼ半分を家庭に宅配し、約600本分を小学校に配達する。残りはホテルやレストラン向け。牛乳は短時間高温殺菌が一般的だが、ここでは風味を生かすため「75度で15分」と時間をかけて低温殺菌している。

 

 宅配先からは「懐かしい味がする」「濃厚でおいしい」と好評。古くからの植村ファンも多く、週末には京都など遠方からやって来るお客さんも多いそうだ。牧場を案内してくれた菊川長郎(たけお)さんが苦労話を1つ打ち明けてくれた。「台風などで突然警報が出て小学校が休校になったときが大変。特に金曜の配達予定分が止まると処分するしかないので……」。餌となるオカラや牛舎にまくオガクズは豆腐店や製材所からの頂き物。牛のし尿はオガクズと混ぜて乾燥処理し、有機肥料として近隣の農家に配っている。

 牧場の入り口右手にあるカフェレストランは牛乳を使った様々な料理を提供しようと10年前に開店した。店名の「いちづ」の名付け親は映画監督の河瀬直美さん。「酪農ひとすじ」「障害を持っていても一途に」といった思いが込められているという。大きな木製の看板(上の写真㊨)はNHK大河ドラマ「龍馬伝」の題字で有名な書家紫舟さんが書いてくれた。紫舟さんは上京前、奈良で3年間研鑽を積んだが、その時、牧場にもよく訪ねてきてくれたという。レジの後ろにも「御礼」という紫舟さんの書が飾られていた。

 

 入り口左手にある牧場の案内所には小学生が描いた牛の絵や牧場の紹介記事などが天井にまで所狭しと貼られていた(上の写真)。展示品の中には昔使っていた学校給食用の金属性配達容器や牛乳の遠心分離機なども。手づくりの牛乳、障害者が働きやすい環境づくり、消費者や近隣農家との近い関係、環境にやさしいリサイクル……。植村牧場が奈良市のど真ん中で130年もの長きにわたって続いてきた理由が分かったような気がした。

コメント
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