経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

欧州という他山の石の価値

2011年11月16日 | 経済
 経済において、ミクロとマクロは違うのだが、一般の人に、それを理解してもらうことは難しい。経済政策の歴史は、ミクロの感覚をマクロに当てはめて失敗することの繰り返しである。政治や大衆の同意を得なければならない経済政策は、常識では到底理解しがたい量子力学さえ基礎にできる技術開発とは違うのだ。

 イタリアで国債金利が高騰しているのだから、財政赤字を削減すれば良いというのは、ミクロの考え方である。削減してGDPが縮んでしまえば、かえって借金返済が困難になることまで考えるのがマクロということになる。借金返済のために、節約をし過ぎてはいけないという論理は、家計にも企業にもないものだ。

 したがって、イタリアはもっと緊縮財政をすべきだという、事態を更に悪化させるような主張が大手を振ってまかり通るわけである。そういう経済運営もできなくはないが、その場合、並行してドイツが内需拡大策を取り、イタリアからの輸入を増やし、需要を補ってやる必要がある。それが嫌なら、寛大な融資を続けるしかない。

 本コラムは、そうした主張を、昨年からして来ている。まあ、1/16あたりでも見てもらいたい。欧州が取るべきだった経済政策は、資源価格の高騰によって物価上昇率が高まった今年の春の時点でさえ、積極的な金融緩和であり、ドイツの内需拡大などで南欧経済を牽引することであった。

 今日の「大機小機」は、追分さんが「ギリシャにならないために」として、日本も増税か社会保障切下げをすべきと主張する。それによって穴が空く需要は、規制改革とTPP推進という計量不能な政策に頼るつもりらしい。別に、追分さんを批判したいわけではない。これは、日本人に良くあるパターンだろう。

 筆者は、規制改革でもTPP推進でも、それで内需が出てきたことを確かめてからなら、増税でも社会保障切下げでも、すれば良いと考える。最悪なのは、出るか出ないか分からないのに、焦って緊縮財政をやってしまおうとすることである。成長戦略など無くても良いから、成長の範囲内で緊縮財政をすることを心掛けてくれさえすれば良いのだが。

 日本の財政当局は、財政赤字を家計に例えるのが得意だが、これは、経済運営をする資格がないと、自分で宣言しているようなものである。それを新聞各紙が喜んで取り上げる様子を見るにつけ、日本の夜明けは遠いと思えてしまう。日本以外では、需要管理を土台に経済運営をするのは普通なんだがね。欧州が苦しんでいるのは、国を跨ぐ需要管理なのだ。

 財政再建は、国の借金を減らすことであり、日本の場合、イコール、国にカネを貸している国内の家計や企業の貯蓄を減らすことである。次の世代に借金を残さないため、増税で家計や企業の貯蓄を取り上げて相殺しましょうと「真実」を述べたら、一般の人は驚くのではないか。マクロでは、国も、家計も、企業も、全部門が貯蓄を持つというのはない。(全借金を外国が持つ場合は別だが)

 もちろん、家計が貯蓄を崩して消費を増やし、それに応じて、企業が貯蓄を投資に充てるのなら、需要が増加するので、増税でもして国の借金を減らせば良い。ところが、日本の財政当局は、消費増税をして、消費を減らすことばかり考えている。しかも、法人減税など、貯蓄を増強するようなことには寛大であり、相続税など資産課税にも大甘だ。ピント外れもはなはだしい。

 日本は一国で何とでもなる恵まれた経済環境に在るがゆえに、ギリシャやイタリアの緊縮財政の本当の難しさを理解できていない。「他山の石にせよ」という議論は巷にあふれているが、本当の価値を分かっている者は、ほとんどいないのである。

(今日の日経)
 ユーロ圏0.6%成長、南欧不振で低い伸び。イタリア国債再び7%台、スペインも6.3%へ上昇。欧州に景気後退の影、実体経済むしばむ。民主税調・住宅、贈与枠の拡充検討。社説・生活保護の増加。潜在失業者469万人。トヨタが環境車を続々投入。東ガスが設備投資3割増。上場企業、経常益16%減。経済教室・アジア金融統合・高橋亘。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 危機はイタリアからフランスへ | トップ | 欧州の重大局面における日経 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事