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経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・10-12月期は内需総崩れ

2016年01月31日 | 経済(主なもの)
 12月の家計調査は、二人世帯の実質消費支出(除く住居等)の季節調整済指数が93.6という惨憺たる結果だった。前月比は+0.9でも、消費増税直後の2014年4月と同水準という内容だ。GDPの6割を占める消費が10-12月期の成長率を大きく下げるのは確実で、鉱工業指数の動向からすると、その他の内需も総崩れの様相を呈している。消費増税に続く、2015年度の8兆円に及ぶ緊縮財政は、異次元緩和第2弾もものかわ、成長抑圧に絶大な威力を発揮したことになる。

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 家計調査は、11月が消費増税直後の底さえ割る異常な低さだったので、大きなリバウンドを願っていたが、やはり、そうはならなかった。12月の商業動態の小売業は、前月の急落に続き、前月比-0.2であり、鉱工業指数の消費財出荷は、低かった前月から+0.3でしかない。これらを踏まえると、10-12月期GDPおける民間消費は、前期比-0.5より大きな減少を覚悟せざるを得まい。こうした落ち込みは、多くの一致する見方であろう。

 その場合、7-9月期GDPの民間消費+0.4は帳消しとなり、10-12月期の実額は306兆円程度にまで下がる。これは、増税直後で落ち込んだ2014年4-6月期を下回りかねないレベルである。消費は、増税以来、上下を繰り返すのみで、成長できていない。2015暦年では、前年比-1.0%以上のマイナスになるだろう。増税前の駆け込みを含む2014暦年も-1.0%であったから、2年連続で国民の生活水準は切り下がることになる。

 他方、設備投資については、動向を示す鉱工業指数の資本財(除く輸送機械)の出荷が前期比-1.0に終わった。前期のように、鉱工業指数がマイナスでも、GDPの設備投資がプラスになる場合もあるが、10-12月期の設備投資は、マイナスと考えるのが妥当だろう。ただし、伸び悩んではいるものの、金融緩和による円安の効果もあってか、消費増税前より上の水準は保っている。

 次に、住宅と公共投資に関しては、一致指標の鉱工業指数の建設財出荷が前期比-2.4と後退し、1-3月期から7-9月期までの安定が崩れた。住宅着工は、低金利下の持家の堅調さ、相続税対策の貸家の増加に支えられてきたが、秋以降は低下局面へと移っている。また、公共事業も緊縮財政に伴って減退しており、予想された結果である。過去の政策効果に安住して、手を抜いたツケが現れたと言えよう。

 そして、成長の重荷になるのは、鉱工業指数の在庫の動きである。7-9月期の平均は、前期比0.0であったものが、10-12月期には-1.9となった。在庫減の寄与を-0.2は見ておく必要があろう。実は、もっと減ると考えていたが、12月の資本財の出荷が振るわず、高めの在庫水準が残り、消費の低迷もあって、消費財の在庫も整理し切れていない。すなわち、1-3月期になっても、依然、在庫が成長の足を引っ張ることになる。

 以上を踏まえると、10-12月期のGDPは、外需の寄与が0.1程度は望めるとしても、前期比で-0.5、年率-2.0%ものマイナス成長になるだろう。しかも、消費は低迷したままで、在庫の重荷を抱え、先行する設備投資の機械受注も不調である。これに、前年度より絞った中身の補正予算で立ち向かうのだから、1-3月期になっても明るい展望は開けないというのが正直なところである。

………
 12月の経済指標では、ダメなことが見えていた消費や投資より、遅行指標の雇用に注目していた。特に、労働力調査の就業者数は、前月に急減していただけに心配していたが、季節調整値で45万人増と巻き返した。ひとまずは安心でも、ここで停滞に入るおそれもあって、油断はできない。また、失業率は3.3%と、4月に到達して以降、改善の進まない状態が続く。他方、有効求人倍率は +0.02の1.27倍になり、新規求人倍率は -0.02の1.91倍であった。 

 低迷する消費と比較し、求人だけは上昇していることに、矛盾を感じるかもしれないので、今回は、「男性」の就業者数の推移を示しておく。下図のとおり、消費増税後は、頭打ちになっていたことが分かる。2015年になると、むしろ、低下気味となり、秋以降、ようやく取り戻したところだ。家計の主軸である男性がこうした実態にあると知れば、女性の支えはあるにせよ、消費が盛り上がらないことに、納得できるのではないか。

 週刊エコノミスト(2015/12/1)で、日本総研の枩村秀樹さんが指摘していたことだが、過去と比較すれば、若年や中堅の男性には、まだ就業率を高める余地がある。ここを埋めて、失業率を2%台半ばまで高めないと、賃金も物価も十分に上がって来ない。アベノミクスは、そうなる前に緊縮財政を始めてしまった。確かに、求人倍率は高いが、女性が多く、低賃金とされる医療・福祉が大半を占めるようでは十分と言えまい。

(図)



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 1/29に、日銀がマイナス金利を打ち出し、金融政策は、量と質に加えた「三次元緩和」という段階に入った。マイナス成長の日本経済には、マイナス金利はお似合いというところだが、さしあたりの円安・株高は実現しても、どれほど実体経済を浮揚させるものか。2014年10月末の異次元緩和第2弾後も、消費は停滞から抜け出せず、それゆえ、需要圧力による物価上昇は見出しがたい状況だ。

 むしろ、2016年度の更なる緊縮財政が確定した段階での「三次元緩和」は、アベノミクスの特徴である金融緩和と緊縮財政の極端な組み合わせを一層深めた印象がある。5兆円規模の補正予算を組んでいれば、消費の底入れからのバウンドで上向く契機になり得たと思うだけに、誠に惜しまれる。今後、わずかずつの成長はあるにしても、物価目標を達成できるような、失業率が2%台半ばに届く時期は、まったく見通せない。

 それをよそに、アベノミクスの次の課題には、同一労働同一賃金が取り上げられるようだ。これには、非正規への社会保険の適用差別の解消が第一である。制度的差別の撤廃なくして、経済的差別はなくせない。課題は、「被用者皆適用」に、低所得者の負担軽減が欠かせないことだ。景気が低迷しても、改革の道を示せば、選挙には勝てる。それは、無視されてきた非正規の能力の解放という、本物の成長戦略に着手できるかにかかっている。


(今日の日経)
 企業収益が急減速。マイナス金利・中銀頼みの誘惑再び。トランプ現象は言えない本音を語る快感・御厨貴。
 

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