経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

Gゼロ時代は来るのか

2012年10月29日 | 経済
 「Gゼロ後の世界」という本を書店で見かけたのだが、米国が衰退すれば、当然、そうなるのであって、特別、興味も覚えなかった。ところが、今週の日経ビジネスに著者のイアン・ブレマー氏が登場し、中国にとって「日本は敵に回してよい国」なのだそうだ。これがとても目を引いた。穿った捉え方だと思う。

 さて、問題は、本当に中国がペースを落としつつも順調に成長し続けられるかである。1980年代に強勢を誇ったソ連は、石油価格の下落とともに1991年に崩壊した。米国を買えると言われた日本のバブルはうたかたで、ハシモトデフレで墓穴を掘り、15年もゼロ成長をさ迷っている。覇権が交代すると言われるときは、それが頂点だったりするのである。

 筆者は、中国経済の消費比率から、早くから6%程度の成長が妥当としてきた。いまや、そうした説も珍しくなくなっている。むろん、これは経常状態のことであり、これまでの高投資の反動で、いったんはこれを突き破る低下を示した後、回復して到達する水準である。経済運営のよろしきを得れば、深い谷を経ずに行き着くことも可能ではある。

 とは言え、経済運営は、何かと政治やイデオロギーに引きずられ、拙いことをやってしまいがちだ。日本だって、財政再建至上主義による、猛アクセルと急ブレーキの財政運営をしていなければ、今のような惨めな状態にならずに済んだ。ソ連だって、外貨が豊富な時に、軍備に蕩尽せず、民生産業の振興に充てていれば、歴史は別のものになったに違いない。

 中国経済の最大の課題は、しばしば言われることだが、貧富の格差の是正である。成長率が低下すると、成長の果実は富裕層にばかり行き、貧困層はゼロ成長ということになる。これは社会不安を呼ぶから、中国共産党にとって恐怖の事態である。当然、最低賃金の引き上げなどで再分配を図ろうとするだろうが、減速経済でどれだけ浸透するやら。また、最低賃金だけでは、食料物価の上昇という副作用も心配しなければならない。

 理想は、中間層を厚くすることだが、これが経済政策では一番難しい。日本の高度成長期では、大企業の労働組合がこの役割を果たしたりした。サービス業の育成の過程で避けがたい生産性格差インフレを受け止められる民主政治もあった。こういう社会的な基盤は、一朝一夕に作れるものではない。

 今の中国にできることは、公共投資などで需要を追加することだろう。もっとも、リーマンショック後と異なり、素材などの設備投資には波及しないから、孤独な戦いになる。また、地方は資金難のようだから、中央政府の背負うものは重い。家電や車の普及策で補おうにも、既に先食いをしている。当然、極端で効き目の薄い政策への反対論も強かろう。

 基本的には、政府需要を拡大しつつ、累進所得税や資産・金融課税を強化して、再分配を進め、インフレを緩和する必要がある。むろん、共産中国だって、これに抵抗する既得権勢力がある。理想的な経済政策を進めることは、政治的に厄介な事柄なのだ。最善の経済運営をして、実現可能な最大限のパフォーマンスを発揮すれば、中国にも着実に大国へと向かう道はある。

 しかし、そうはならないものなのだ。結局は、経済よりも、政治やイデオロギーが優先されるというのが、これまで繰り返されてきたことである。循環で得られる経済力と、堰き止めで得られる政治力とは相克し、与えることを惜しむがために繁栄は霧散していく。それは政治体制のいかんに関わらないのである。

(今日の日経)
 新興国マネーが日本買い。貯蓄性の保険を増やす方向に。核心・徹頭徹尾サイエンスの市姿勢を・滝順一。中国、年内に格差対策案、8年間、成案出ず。新雑誌が40年代独身女性に的。三菱重工は利益と雇用安定を追う。起業で独自のものづくり。デフレの責任は政府61%、日銀20%。中国・所得の20倍でも買える富裕層がいるからバブルが怖い。経済教室・株主期待・川北英隆。科学部を中学に。

※滝さん、限界まで踏ん張った良い論説です。

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