経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

総合的な判断の下の経済学

2011年10月18日 | 経済
 今日の経済教室の宇南山卓先生は、まだ30代かね。お若いのだな。1997年のハシモトデフレの時は、まだ学生さんか。当時を統計データでしか知らない人に、「消費税が景気を後退させたとみなされたのは、いわば誤解によるものだ」と言われてもねえ。デフレでも消費税と主張する人を、どう説得したら良いのかなあ。途方に暮れるよ。

 宇南山先生の主張の趣旨は、消費税導入時には、駆け込み需要とその反動で大きく変化するものの、それを乗り越えた後の所得効果は小さく、家計消費も半年ほどで元に戻っているから、消費税増税の景気に対する影響は軽微だとするものだ。しかし、筆者は、反対に、この二つがあるからこそ、消費税増税は危険だと判断する。おそらく、多くの経営者も、そう思うのではないだろうか。

 実は、1997年当時、多くの経営者は、宇南山先生と同じように考えていた。駆け込み需要があって、いったん、その反動で落ち込むものの、回復してくるから大丈夫だろうと。ところが、消費税の引上げ以降、予想外に在庫が積み上がり、慌てて生産調整に動くことになった。これが起こった時点で、景気の失速は確定だった。

 前にも、このコラムで書いたのだが、「消費税増税で、駆け込みと反動があっても、均せば前と大きく変わらないから平気でしょう」と言うのは、企業にとって、「予め多めに酸素を吸わせるから、しばらく息をしなくても平気でしょう」と言われるようなものだ。半年も息をしなければ、窒息死してしまう。

 消費税増税の危険性は、この駆け込みと反動のショックの大きさ自体にある。リーマン・ショックの際の輸出にしても、在庫調整のためにV字回復することは容易に予想できたが、企業経営が受けた打撃は大きかった。昨年のエコカー補助金や今年の地デジのような小さなものでも、駆け込みと反動への対応に、大変な苦労を強いられている。

 ちなみに、消費税増税の影響は小さいとする論者の1人である上智大の中里透先生も、ショックを緩和するために、住宅への課税の軽減を提案したりしている。因果への論争はあるにしても、消費税増税の時に不況に転落したのは事実なのだから、考えられる危険を避けるため、対応を考えることは、政策論として欠かせないであろう。

 設備投資というのは臆病なものであり、経済運営においては、ショックは禁物だ。これを避けるべく、増税は段階的に行ったり、経済対策の終了に経過措置を設けるというのは、セオリーである。まあ、こんなことを宇南山先生に言ったところで、単なる経験則だと、切って捨てられるだけかもしれんがね。

 さて、宇南山先生のもう一つの論拠である、半年たてば消費は戻るというものだが、1997年の家計消費の動向の見方には、一つ落とし穴がある。経済教室のグラフを見れば分かるように、戻ったと言っても、8月に、ちょっと水面下から出ただけである。これだけで戻ったのかと言えるのかという感じはする。また、12月の落ち込みもびどいが、これは、消費税でなく、大型金融破綻の影響と主張されるのかな。

 当時の状況を言えば、前年までに景気は目に見えて回復してきていた。成長率は1995年度に2.3%、1996年度に2.9%である。このトレンドからすれば、半年で消費が元に戻ったくらいではとても足りない。企業にとっては、前年度水準から伸びているくらいでなければ、消費に急ブレーキがかかっているという感覚なのである。

 実際、家計所得の伸びを勘案すれば、もっと消費は伸びていなければおかしい。数字以上に、消費の低迷ぶりは深刻なのだ。企業にしてみれば、従業員の給料を増やしたのに、消費はさっぱり付いて来ない形になっている。これが在庫急増の正体である。大型金融破綻にしても、景気悪化が背景になっており、消費税増税と切り離すことはできないだろう。

 筆者は、経済学においては、総合的な判断が欠かせないと考えている。「消費税が原因というのは誤解」と切って捨てるのではなく、なぜ、当時の人々がそうした実感を持ったのかを考えるべきであろう。「なぜ」を繰り返し、多元的な情報を交差させ、歴史解釈的に読み取っていくことが必要なのではないだろうか。

(今日の日経)
 タイ供給停滞が世界に波及。ドコモ営業益200億円増。東電が支援機構に7000億円要請へ。対米協調へ進展演出・普天間とTPP。経済対策で設立の基金2兆円を使い残し。冷温停止は年内に工程表改定。特別交付税で復興基金1996億円。インフレで財政再建困難・内閣府会議報告。FT・米で学資ローン滞納急増。米軍事有事対応に懸念の声。経済教室・消費増税、景気に影響軽微・宇南山卓。

※経済対策の「カラ積み」の実態が出たね。財政当局は支出に難しい条件を付けて意図的に余らせているのだろう。また埋蔵金の出現だ。※特別交付税は良いが、補正予算でウラ負担をなくすと、将来の交付税を余らすことになる。それでも増税かね。※内閣府のこの報告書も酷い情報操作だね。後日、書くとするか。

※kitaalpsさん、サポートありがとう。こういう財政運営の実態が分かる良いグラフを多くの人に見てもらいたいものだね。

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1 コメント

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橋本増税 (AXX)
2011-10-18 23:01:06
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-625.html#cm


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