経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

円高は経済界が望んだ結果

2011年08月21日 | 経済(主なもの)
 当然の結果ではないだろうか。今回の円高局面である。日本は、2010年度後半に、10兆円もの緊縮財政を行い、デフレを放置した。他方、米国はQE2を行い、ドル安と資源高によって、物価高となったのだから、円高ドル安にならない方がおかしい。

 もちろん、物価差が開いても、日銀が金利を下げ、金利差をつけることができれば、円高を緩和できるのだが、短期金利はゼロに近く、長期金利は1%割るところまで来ているのだから、それは無理な話である。昨日の夕刊で日経は、円高の背景には日米の金利差縮小があると報じている。米国の長期金利は、3%程度であったものが、この1か月で2%程度まで低下した。日本の長期金利は、もともと1%程度しかないのだから、従来の金利差を維持しようと思えば、マイナス金利にでもしなければならない。

 金融政策には限界があるのだから、円高のためにも、デフレが続くような緊縮財政をすべきではないのである。「えっ、そんなことしてたの?」という声が聞こえてきそうだか、先日公表された政府の「経済財政の中長期試算」を、よく見たら良い。国・地方の基礎的財政収支の対GDP比が、2009年度の-8%から2010年度の-6%に改善されている。これは、額で言えば、約10兆円である。

 さて、ここでクイズだ。「需要と供給が均衡している状態で、需要を抜いたら、物価はどう動くでしょう?」 まあ、物価が下がってデフレになるくらい、学部の学生だって分かるだろう。「政府がそんなことをしているなんて聞いてない」って? やれやれ、日本のエリートは、大本営が「デフレ覚悟で緊縮財政をします」と発表しないと、分からないのかね。

 日本の経済界は、不思議なことに、財政再建が大好きで、消費増税にも積極的である。それなら、円高になったからと言って、不満は言わないことだ。今日の日経には、円高に対する経営者の「悲鳴」が書き連ねてあるが、「10兆円の財政再建を果たしたのだから、円高なんて当然です」くらいの気骨を見せてほしい。まあ、そんな覚悟もあるまいが。 

 日本の財政当局は、この1年で、為替介入を7兆円も行った。彼らは、特別会計の事業仕分けの際に、介入で累積した外為特会のカネは、埋蔵「借金」だと言い張っていたが、この調子で行けば、介入は10兆円を超えるかもしれない。そうすると、デフレ覚悟で10兆円の緊縮財政をしたのに、それを帳消しにするような蕩尽もするわけだ。なんと素晴らしい経済運営ではないか。

 為替介入とは、ドルを札束で置くわけではないので、結局は米国債を買うのと同じになる。同じカネを使うのに、何が悲しゅうて、日本人からは吸い上げ、米国人にバラ撒かなければならないのか。昨年度後半、景気対策を次々にぶった切り、急激な緊縮を行ったが、経過措置をとって、緩やかに締めるという、平凡な財政をしておけば良かっただけのことだ。そうしていれば、デフレから脱して、ひどい円高にもならずに済んだろう。

 それで、「これから、日本経済はどうなる」って? いやだなあ、さっきの「中長期試算」に、今年度から来年にかけて、基礎的財政収支がGDP比で1.2%改善すると書いてありますよ。6兆円も緊縮財政をかけるのだから、デフレが長引き、更なる円高に向かうでしょう。まあ、米国の景気が回復すれば、話は別ですが。

 「復興で支出がかさむのに、どうして、そうなるのか」って? 本当に、日本人は財政当局から何も教えてもらえないんですね。今年度の一次と二次補正で6兆円の復興費を用意したわけですが、これは増税なしに用意したものなので、来年度、その支出がなくなると、財政収支は改善するわけです。もちろん、来年度も復興費は用意されるでしょうが、それは、見合いの復興増税で賄われることになっているので、財政収支には中立なのです。

 おっと、諭す気持ちが入ったら、思わず、「ですます調」になってしまった。経営者の諸君よ、財政再建に理解を示すなんて格好をつけず、本音を出して、内需をよこせと言うべきだろう。内需があれば、円高でも耐えられるし、そもそも、円高にもなり難くなる。介入しても投機筋に食われるばかりだ。まともな経済あっての財政である。今こそ、経営者の実感を取り戻すときであろう。

(今日の日経)
 大災害時の政府機能を西日本で補完。政府、円高総合対策へ。マネー動乱、逃避先は円・滝田洋一。社説・さらなる介入と金融緩和をためらうな。風見鶏・一票の格差・西田睦美。円高についての経営者コメント。協調介入G7冷淡、そろわぬ足並み。米がドル安容認、輸出拡大。中外時評・携帯市場を変えたアップル・関口和一。損保会社がトラブルナビ。読書・オバマの戦争。

※こんなことより耐震工事でもしたらどうか。※子ども手当を切って、円高バラマキだ。※逃避だけではなく、経済運営の差もある。※輸出企業に補助金を出す方が安上がりだよ。※日本が緊縮財政で自ら招いた円高に、米国が協調してくれるわけもなし。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 若田部先生に思う日本の現状 | トップ | 次の記事へ »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やはり、そうなのですね (エカワ)
2011-08-21 22:37:22
田舎の珈琲屋のオヤジでも、インフレで無い国の通貨が、インフレの国の通貨より価値が高くなるのは自然の流れなのだと理解できます。
 
ドルの国アメリカはインフレ政策を採用していて、円の国日本はデフレの真っ只中にあるわけですから、ドルに対して円が高くなるのは当たり前だと感じていたのですが、自信がありませんでした。
 
でも、この記事を読ましていただいて、「やはり、そうなのだ」と納得することができました。


返信する

コメントを投稿

経済(主なもの)」カテゴリの最新記事