経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

厚生年金はデフレ要因

2013年08月18日 | 社会保障
 経済運営をするには、公的セクター全体の需要管理は必須である。ところが、日本では、国と地方の財政収支を案じることはあっても、社会保障までは考えが及ばない。先頃、公表された厚生年金の決算によれば、昨年度は1.4兆円のデフレ要因になっていた。その一方、昨年は、景気浮揚に躍起になっていたわけで、こういう統制の取れない感じが、いかにも日本らしいところである。

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 8/9に厚労省が「厚生年金の平成24年度収支決算の概要」を公表した際の日経の反応は、「運用益で大幅な黒字だったが、積立金を取り崩す支払い超過にある」というものだった。確かに、そうではあるが、もう少し視野を広く持ちたい。ポイントは、歳出歳入差が前年度に4.9兆円の赤字だったものが、今年度は3.5兆円の赤字に改善されていることだ。

 赤字の幅が1.4兆円縮んでいるのだから、その分、「財政再建」がなされたことを意味する。公的セクターにとっては結構かも知れないが、家計からすれば、同じだけ所得が吸い上げられたということでもある。デフレ脱却が第一の政策課題だとすれば、それとは逆向きのことをしていたことになる。

 決算の内容を見ると、保険料収入は0.7兆円の増に対し、保険給付費は0.1兆円の増である。これが歳出歳入差を縮めた要因だ。こうした傾向は、この3年ほど続いている。毎年の保険料率の引上げによる収入増と、高齢者数の増加が峠を越えたことによる給付費の伸びの低下が反映したものだ。この傾向は今後も続き、着実に「財政再建」は進むと考えられる。

 ついでに、今年度について、予算ベースで動向を見ておくと、保険料収入は0.8兆円の増であり、年金支給開始年齢の引上げの年でもあることから、保険給付費は0.3兆円の減である。歳出歳入差は、前年度より0.8兆円改善されることになっている。まあ、「改善」と言っても、家計からすれば、負担増と給付減なのだが。

 こうして見ると、「増大する高齢者と進まない改革」と聞かされるイメージとは、乖離があると思う。数字を確認することが大切だ。実は、2014年に団塊の世代がすべて65歳を迎えてしまうと、高齢者人口の伸びは大きく鈍化する。2013年に3.7%増だったものが、5年後には1/3の1.2%になり、その後も下がっていく。加えて、給付費の抑制には、年金支給開始年齢の引上げの影響もある。

 保険料の毎年の引上げも、3年に一度の支給年齢引上げも、過去の年金改革の時に決めたことであり、改革は足元で着実に実施され、決算に表れている。社会保障制度改革国民会議が「これからは年金より医療が課題」とするのは、年金にとって重要な65歳以上の高齢者数の増加は峠を越え、今度は、医療介護を多く必要とする75歳以上の高齢者数の増加が顕著になるという実態を踏まえてのことである。

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 改革は着実に実施されていると言われても、毎年、年金の積立金が取り崩されていることに不安を感じる人もいるかもしれない。しかし、これを減らすことは、家計の負担増、給付減と裏腹の関係にあり、本来の財政再建との整合性も取らなければならない。財政も社会保障もと、引き締めばかりしていたら、経済に需要ショックを与え、肝心の成長を失うことになりかねない。

 残念ながら、日本は、それを来年度にやってしまいそうである。8.1兆円の消費増税、5兆円の公共事業の剥落、そして、1兆円の年金カットである。経済財政諮問会議に提出された「中長期試算」を見ると、2013年度から2014年度にかけて、国と地方の基礎的財政収支は、一気にGDP比で2.7%も改善されることになっている。これに年金カットも加わる。

 こうした「財政の崖」を示されても、平然としているのは、何とも不思議である。しかも、次の年度の改善は1%、更にその次は5年間で3.3%縮めるとするのだから、平準化という最低限の計画性すら欠いている。古典派経済学の思想が強い米国でも、「財政の崖」に脅威を感じ、必死の努力でGDP比の1%にまで圧縮した。デフレの日本で、ここまで執拗に需要ショックを与えようとするのは、「財政赤字が大きいのだから、緊縮はやればやるだけ良い」という、単純極まりない思想が蔓延しているのであろう。

(今日の日経)
 ケア付き住宅への移行支援、転居前市町村が介護費を負担。社説・輸出産業としての大学。

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