データをきれいにまとめ、新たな事実を示す。その発見が世の中の役に立つかは、工学部の人に考えてもらえばいい。まあ、物理学なら、それでも良いのかもしれない。しかし、経済学はどうだ。経済の営みは、所詮は人為だ。不変の物理法則とは異なり、真実もその時代限りのものである。むしろ、現実を在るべき形に変える力を示すことが、その本質ではないのか。
………
研究成果の政策的インプリケーションには、さまざまなタイプがある。そもそも、政策は、その時々の必要に応ずることで進化してきたものだ。悪く言えば、ツギハギだが、進化という名の「盲目の時計職人」が秩序立ったものに仕上げている。他方、経済学は論理であるから、政策の冗長さを省き、筋道を正しつつ、評価し、提言することになる。
その第一のタイプは、正しい方向にあるかないかである。年金制度で言えば、状況分析を踏まえた上で、給付を充実すべき、あるいは、減量すべきといったものになる。第二のタイプは、欠落や過剰はないかである、非正規のように制度からこぼれている者はいないか、高所得者に税で手厚くするのは妥当かといったものになる。第三は、制度原理の変換になる。こうなると、必然的に代案なしでは済まされない。
具体的には、保険料に応じて年金を給付するという原理を修正し、賦課方式の本質は、前世代の扶養と次世代の育成の両方の負担を満たすことにあるとし、子供を持たない者への給付は半減するといった手段を用い、年金制度の負担と給付の均衡を図るといったものである。(詳しくは「小論」を参照)
なお、年金制度は少子化への対応を迫られたわけだが、普通なら在り得ない事態である。少子化は長期的絶滅にほかならないから、年金を少子化に合わせるのでなく、少子化の克服が先決になるだからだ。ところが、日本では、財政再建が最優先されるという、奇妙なことになっている。死に至る病に際し、カネを惜しんで治療を棄てるに等しい所業だが、世の中に、命よりカネを大事にする輩は少なくない。
………
政策提言には、別のアプローチもある。例えば、統一地方選を意識して、地方創生を力説し、消滅可能性都市という驚くべき「事実」を示すといったものであり、いわば、時宜に合わせる形での提言だ。地方創生は、瞬く間に時の政権のアジェンダとなり、全国で地方振興商品券が企画され、結果として、与党に勝利をもたらした。
この伝で行けば、来年夏の参院選には何が求められるのか。2017年に2%の消費増税が控え、実施するしかないとすれば、ショックを和らげるための需要追加策が必要とされよう。既に、軽減税率の検討は始まっているが、生鮮食品を8%に据え置くだけなら、3600億円程度にしかならない。これでは到底足りず、あと2兆円程は必要だ。
そうかと言って、公共事業は供給力に難があるし、金融緩和による一段の円安・株高は弊害を心配する領域となっている。また、法人減税はサッパリ効果が上がっておらず、地域振興商品券も、結果はこれからにしても、景気浮揚の効果は望み薄である。政治的には、フレッシュな需要追加策が欲しいところだ。
そんな中、本当に日本が必要としているのは、低所得層にも一律25%も掛かる社会保険料の軽減である。低所得層に限定されるから、先に挙げたような数々の策とは、効果も効率も段違いに優れる。130万円の壁は、若者や女性を非正規に閉じ込めているし、企業側にとっても、労務費が軽くなるのは願ってもないことで、特に中小は助かる。おまけに、物価が上がるにつれて、軽減措置は自動的に薄くなるから、財政負担も限定的である。
この策の存在を知ってしまえば、他の策がバカバカしく見えるほどだ。すなわち、この策を逸早くつかんだ者には、参院選における政策論の主導権を取れるチャンスがあるということである。もし、どこかの野党が言い出したら、対抗上、与党も似たような策を掲げざるを得なくなるだろう。それだけ、ここには社会の不合理が蓄積されている。
………
言うまでもなく、チャンスがあるということと、起こりそうということは同じではない。そこは、リスクと同じである。「ニッポンの理想」では、消費増税で成長が失速し、需要追加策が求められるだろうと予想し、増税前の準備可能な早い段階で書いておいたが、現実に採用されたのは、やはり、地方振興商品券のバラマキだった。だいたい、政策提言なんて、えらい労力をかけて作っても、こんなものである。
社会保険に関する提案の理解には、それなりの素養が必要で、普通の人々は、「どうして、こんなに重いんだ」と嘆息しても、軽減を求めることさえ思い浮かばない。それより、少しでも多く稼ぐ方が関心事だ。また、年金は、医療保険と違い、負担に応じた給付という原理が強いので、そういうものだと言われれば、あっさり受け入れてしまうだろう。
現実とは重たいもので、そう簡単に動かない。石橋湛山の小日本主義だって、戦前の日本を変えることはできず、人々の記憶に残っただけである。ケインズは、「平和の経済的帰結」で警鐘を鳴らしたが、戦争は繰り返された。それでも、私は全力で書く。必要とする人たちがいる限り、語るべき「言葉」を与えずにはいられない。経済学は、真実を知るだけでは足りず、時論を欠けない学問だと思うからである。
(昨日の日経)
TPP詰めの交渉。財政健全化の揺れる方程式。総人口4年連続減、ピークより100万人。
(今日の日経)
ベア実施は53.2%・本社1次集計。交易条件が5年ぶり改善。英保守党も労働者に的。
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研究成果の政策的インプリケーションには、さまざまなタイプがある。そもそも、政策は、その時々の必要に応ずることで進化してきたものだ。悪く言えば、ツギハギだが、進化という名の「盲目の時計職人」が秩序立ったものに仕上げている。他方、経済学は論理であるから、政策の冗長さを省き、筋道を正しつつ、評価し、提言することになる。
その第一のタイプは、正しい方向にあるかないかである。年金制度で言えば、状況分析を踏まえた上で、給付を充実すべき、あるいは、減量すべきといったものになる。第二のタイプは、欠落や過剰はないかである、非正規のように制度からこぼれている者はいないか、高所得者に税で手厚くするのは妥当かといったものになる。第三は、制度原理の変換になる。こうなると、必然的に代案なしでは済まされない。
具体的には、保険料に応じて年金を給付するという原理を修正し、賦課方式の本質は、前世代の扶養と次世代の育成の両方の負担を満たすことにあるとし、子供を持たない者への給付は半減するといった手段を用い、年金制度の負担と給付の均衡を図るといったものである。(詳しくは「小論」を参照)
なお、年金制度は少子化への対応を迫られたわけだが、普通なら在り得ない事態である。少子化は長期的絶滅にほかならないから、年金を少子化に合わせるのでなく、少子化の克服が先決になるだからだ。ところが、日本では、財政再建が最優先されるという、奇妙なことになっている。死に至る病に際し、カネを惜しんで治療を棄てるに等しい所業だが、世の中に、命よりカネを大事にする輩は少なくない。
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政策提言には、別のアプローチもある。例えば、統一地方選を意識して、地方創生を力説し、消滅可能性都市という驚くべき「事実」を示すといったものであり、いわば、時宜に合わせる形での提言だ。地方創生は、瞬く間に時の政権のアジェンダとなり、全国で地方振興商品券が企画され、結果として、与党に勝利をもたらした。
この伝で行けば、来年夏の参院選には何が求められるのか。2017年に2%の消費増税が控え、実施するしかないとすれば、ショックを和らげるための需要追加策が必要とされよう。既に、軽減税率の検討は始まっているが、生鮮食品を8%に据え置くだけなら、3600億円程度にしかならない。これでは到底足りず、あと2兆円程は必要だ。
そうかと言って、公共事業は供給力に難があるし、金融緩和による一段の円安・株高は弊害を心配する領域となっている。また、法人減税はサッパリ効果が上がっておらず、地域振興商品券も、結果はこれからにしても、景気浮揚の効果は望み薄である。政治的には、フレッシュな需要追加策が欲しいところだ。
そんな中、本当に日本が必要としているのは、低所得層にも一律25%も掛かる社会保険料の軽減である。低所得層に限定されるから、先に挙げたような数々の策とは、効果も効率も段違いに優れる。130万円の壁は、若者や女性を非正規に閉じ込めているし、企業側にとっても、労務費が軽くなるのは願ってもないことで、特に中小は助かる。おまけに、物価が上がるにつれて、軽減措置は自動的に薄くなるから、財政負担も限定的である。
この策の存在を知ってしまえば、他の策がバカバカしく見えるほどだ。すなわち、この策を逸早くつかんだ者には、参院選における政策論の主導権を取れるチャンスがあるということである。もし、どこかの野党が言い出したら、対抗上、与党も似たような策を掲げざるを得なくなるだろう。それだけ、ここには社会の不合理が蓄積されている。
………
言うまでもなく、チャンスがあるということと、起こりそうということは同じではない。そこは、リスクと同じである。「ニッポンの理想」では、消費増税で成長が失速し、需要追加策が求められるだろうと予想し、増税前の準備可能な早い段階で書いておいたが、現実に採用されたのは、やはり、地方振興商品券のバラマキだった。だいたい、政策提言なんて、えらい労力をかけて作っても、こんなものである。
社会保険に関する提案の理解には、それなりの素養が必要で、普通の人々は、「どうして、こんなに重いんだ」と嘆息しても、軽減を求めることさえ思い浮かばない。それより、少しでも多く稼ぐ方が関心事だ。また、年金は、医療保険と違い、負担に応じた給付という原理が強いので、そういうものだと言われれば、あっさり受け入れてしまうだろう。
現実とは重たいもので、そう簡単に動かない。石橋湛山の小日本主義だって、戦前の日本を変えることはできず、人々の記憶に残っただけである。ケインズは、「平和の経済的帰結」で警鐘を鳴らしたが、戦争は繰り返された。それでも、私は全力で書く。必要とする人たちがいる限り、語るべき「言葉」を与えずにはいられない。経済学は、真実を知るだけでは足りず、時論を欠けない学問だと思うからである。
(昨日の日経)
TPP詰めの交渉。財政健全化の揺れる方程式。総人口4年連続減、ピークより100万人。
(今日の日経)
ベア実施は53.2%・本社1次集計。交易条件が5年ぶり改善。英保守党も労働者に的。
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