経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・必要なのは「成長」健全化

2018年01月28日 | 経済(主なもの)
 財政を締め過ぎれば、成長を害する。それを理解しないから、「もっと緊縮」を求め続けることになる。ビジネスの視点に立つ日経は、「小さい政府」的な主張になるのも分からなくはないが、リベラルなはずの朝日が増税と歳出削減を望むのでは、庶民は救われまい。改訂された『中長期の経済財政に関する試算』の隠れたメッセージを解き、読者の木鐸となる言説を考えてはどうだろう。

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 今回の改定で、最も意外だったのは、増税の2019,20年の実質成長率が1.4%と1.5%へ大きく下方修正されたことだ。2017,18年が1.9%と1.8%であり、2021,22年が1.7%と1.9%だから、不自然に凹む形となった。普通の理解は、1%の消費純増税による成長の減速だろう。他の要因だとしても、成長率が下がるときに増税する愚はない。仮に、2018年の1.8%が維持されたとすると、成長率の差の累積は0.7%、3.7兆円程になる。つまり、それだけ大きくなる成長を捨て、小さいままのGDPで家計から政府へ増税分の2.8兆円を移そうというわけだ。

 こんな「損」な経済政策はない。朝日は社説で「現実直視が出発点」とするが、『試算』を直視すれば、消費増税の延期という結論しか出てこない。仮に、取りやめても、基礎的財政収支をゼロにする目標が2年遅れるだけのことだ。それで、何の問題があるのか。長期金利の上昇が心配なら、利子への税率を20%から25%に引き上げて利払費を補えば良い。日経の社説は、ある意味で正しく、こんな合理性に欠ける計画が「信頼」できるはずもなく、尚早な純増税は、あり得ないとなる。

 一般に、シミュレーションの観察で大切なのは、結果を大きく動かし得る前提を見極めることだ。『試算』では、足下の2017,18年度の税収が、それに当たる。これが試算の出発点となる「発射台」になるからだ。実際、過去にも、税収の上ブレによって、財政再建の目標達成に必要な収支差が大きく縮んだことがあった。そして、足下では、景気回復により企業収益が大幅に伸びており、税収の上ブレが予想される。これを反映させたものが下図の緑線であり、目標の達成が2年早まることが分かる。

 そうすると、財政再建の目標を、『試算』の自然体のとおり、2027年度に置いたとすれば、2018年度の税収の見込みがつく頃には、2年の前倒し達成が明らかになり、成長を凹ます2019年10月の消費純増税は、「実は不要でした」ということになる。こうした訳の分からなさは、財政再建の目標を達成年次で決める無理さ加減の証明であり、失敗を繰り返して来た理由である。財政再建は、成長に合わせ、高い時には大きく、低い時には小さく、しかし、着実に進めることが必要だ。これができない硬直した計画は有害無益であり、健全な成長と整合しなくてはならない。

(図)  



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 この際だから、緊縮財政の全体状況を確認しておこう。まず、2017年度については、国は、補正後の歳出が前年度比-1.1兆円で、税収予想が前年度決算から+2.6兆円だから、3.7兆円の緊縮だ。地方は、歳出が+0.7兆円で、税収予想が+1.6兆円なので、0.9兆円の緊縮になる。合わせてGDP比0.8%の緊縮である。次に、2018年度については、国は、補正後歳出を横バイと仮定すると、税収が前年度決算予想から+1.9兆円になるから、同額の緊縮だ。地方は、歳出が+0.6兆円で、税収予想が+1.4兆円だから、0.8兆円の緊縮になる。合わせてGDP比0.5%の緊縮である。なお、公的年金は、予算ベースでGDP比0.1%の緊縮となっている。

 『試算』では、消費増税の影響が抜ける2022年度以降、基礎的財政収支の改善幅、すなわち、緊縮幅は、毎年GDP比0.3%であるから、足下での改善ペースは、それより早いものである。そこで、日銀・資金循環における中央+地方政府の資金過不足のGDP比も、図の黄線で重ねておいた。2017年度以降は、直前8期のトレンド(毎年GDP比0.44%)で延長している。資金過不足は、基礎的収支よりGDP比で1%程は低く出るので、このペースなら、消費増税なしでも2023年度頃に財政再建の目標に届く計算になる。今後、最新の資金循環が出るたびに点検していきたい。

 アベノミクスの財政は、2012年度以来、補正後の歳出を横バイに抑制している。したがって、この間の消費増税と自然増収は、すべて財政再建に充てられた。そうでなければ、『試算』のように、GDP比で3%以上も財政収支が改善していない。これが役所の説明しない真実であり、自らデータを読まねば分からぬことである。まさに、アベノミクスは、緊縮財政と金融緩和の組み合わせなのであって、成長は輸出が主体となり、消費は低迷するという結果にふさわしいものと言える。

 財政計画の本当の争点は、これを続けるかである。日経としてはイエスだろう。しかし、朝日はどうか。例えば、一般歳出の伸びを抑えるキャップを5000億円から1兆円に緩める方法もある。これだと、『試算』のベースラインケースの名目1.8%成長で得られる税収増に見合う伸びになり、財政収支には中立で、高成長なら緊縮、低成長なら拡張となる。+5000億円で毎年リベラルな新施策をする余地もできるというものだ。ここまで塩を送ったのだし、国民のために、反緊縮で大いに論陣を張ってもらいたい。これぞ議論の健全化ではないか。


(今日までの日経)
 先進国、需要不足解消へ。外国人労働者5年で60万人増。病児・学童 受け皿拡大。米国第一 ドル安に波及。財政規律・超低金利頼み。賃金再考・額面給与の伸び>手取りの伸び。財政規律・生産性の伸び、バブル期並み。 賃金再考・配当の増加率>給与の伸び率。社説・今度こそ信頼できる財政健全化計画を。黒字化 逃げ水の試算 財政健全化、2年遅れる。朝日社説(1/26)・財政再建 現実直視が出発点だ。

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