経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

試練と挑戦の戦後金融経済史と需要管理

2016年06月19日 | 経済
 マクロ経済の時系列データを扱うときは、年々の出来事をイメージできるほどでないと、正しい読み取りはできない。数値ではなく、歴史なのである。そのために、鈴木淑夫先生の久々の単著『試練と挑戦の戦後金融経済史』は、大いに力になってくれると思う。一つひとつの数値は、多様な課題の中での苦闘によって生み出されたものであり、いくつもの意味が込められている。

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 「バブル崩壊以来、日本経済は低成長に」とは、よく聞くフレーズだが、そう簡単に括れるものではない。そうした雑な総括は、「なぜ、そうなったか」に結びつき、「どう、すべきか」に連なるため、ゆるがせにできない。これに関して、鈴木先生は、1993年10月に底を打ち、1996年度まで3年間、成長率2~3%台の回復があったとして、三重野日銀総裁の金融政策に対する「遅く、不十分」という批判は当たらないとする。

 すなわち、日本経済は、バブル崩壊の痛手から、一度は立ち直っていたのであり、デフレの長いトンネルに突っ込むのは、1997年の超緊縮予算からである。これを知ることが「なぜ」と「どう」の真の答を導く。緊縮財政が景気後退を招き、銀行の不良債権の古傷を開いてしまっために、3年間の景気低迷に陥り、財政、金融、企業経営は、従来の在り方を変えるほどの大打撃を受けた。

 重要なのは、こうした経済破綻、金融危機は予見されていたことだ。当時、衆議院議員だった鈴木先生は、それを国会で追及したにもかかわらず、政府の耳には入らずじまいだった。それどころか、指摘が現実のものとなっても、「予期せぬアジア通貨危機のせい」と強弁した。こうした緊縮財政の影響を絶対に認めないことが、成長を屈折させる失敗を2014年に繰り返す原因となる。

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 さて、2017年4月に予定されていた消費再増税は、2019年10月まで延期された。その意味を時系列データの長期トレンドで探るなら、日本経済は、消費が250兆円前後で、さまよい続けるということである。正直、未来に夢はない。我々は消費税の奴隷だ。それでも、予定どおりに比べれば、かなりマシである。年間の消費は5兆円程多いし、低迷では済まず、永続的なマイナス成長の経済になりかねなかった。

 在り得た未来からすれば、安倍首相の「新しい判断」は大きな功績と言えようが、いかんせん、レベルが低過ぎる。自殺行為だけは回避したことを、どう評すべきなのか。もっとも、世間では、自殺行為をすべきだったという声が満ち溢れているのだから、何をかいわんやである。政策判断の評価は、時系列データを見てからにしてもらいたいものだ。それには歴史も踏まえなくてはならない。

 近年は、リーマンや大震災、消費増税と大変動が多く、長期トレンドは引き難いのが実情だ。それゆえ、長期トレンドを引くには歴史的センスがいる。果たして、従来のトレンドを保てるのか、それとも、ショック後に見られた高めの伸びで急回復を見せるのか、あるいは、新たな水平なトレンドに屈曲してしまうのか、予断を許さない。それでも、長期トレンドを措定しないことには、8%消費増税の打撃は、リーマンと大震災を合わせたものより大きいという計量ができない。

(図)



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 鈴木先生の今回の著書は、歴史書というだけでなく、紙幅の1/4を割いて、黒田総裁時代の時論も語っている。興味深いのは、マイナス金利を評価しつつ、量的緩和の縮減を求めているところだろう。それは時間軸の問題があるからと考える。日銀の保有する国債の年限が長期化していることに伴い、政策転換後の撤収に時間を要することに不安を覚えるからではないか。

 鈴木先生は、歴史を紐解く中で、オイルショック後のインフレ、平成バブルの発生には、半年から10か月の金融引き締めの遅れが影響したとしている。この程度の遅れが経済の行方を大きく変えるのであるから、保有国債の年限の長期化は、大きな制約になるかもしれない。金利上昇に財政が耐えられるよう、利子配当課税を強化せねばならぬが、俎上にも載らず、財源隠しも兼ねて、年間4500億円を日銀に溜め込ませるのみだ。

 経済政策において、金融政策は極めて重要であるものの、消費増税で見られたように需要管理が決定的な影響を与える。戦後は、外需が必要な需要を与えてくれたので、難しさはなかった。経済大国になり、外需に頼れなくなってからは、財政や社会保険との連携が必要になったが、それらは自らの都合で行動し、調整の負荷は金融政策にかかり続けてきた。おそらく、これからも、そうなのであろう。


(今週の日経)
 新車販売500万台割れ・今年見通し。爆買いに急ブレーキ。国債保有・日銀1/3超す。世界株安・円高が進行、英離脱警戒、マネー萎縮。

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