経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

制度は全体から眺めるべし

2012年07月19日 | 社会保障
 今日の経済教室を読んで、若い人たちは、どう思うのかな。鈴木亘先生は、今のペースで公的年金の積立金を取り崩すと枯渇してしまい、現行の「100年安心プラン」の崩壊は明確だとする。これを聞いて、みんなは、急に不安になり、年金の抜本改革をするしかないという焦りに襲われたかな?

 いつも言っていることだが、政策というのは、経済全体から眺めなければいけない。年金だけ、財政だけを見ていると、間違えてしまう。確かに、鈴木先生が言うように、この6年程のペースで行ったら、年金制度は持たないだろう。しかし、この6年間、日本経済に何が起こったのかを思い出してほしい。

 2007年にサブプライム問題が起こり、2008年にはリーマンショックが起こった。その傷が癒えないうちに、2011年には大震災である。むろん、日本経済は大打撃を受けた。年金の保険料は、賃金がベースなのだから、予定より集められなくなるのは当然だ。しかも、デフレが深刻だったから、予定していたマクロ経済スライドで給付を減らすこともできなかった。

 つまり、鈴木先生の言う「今のペース」とは、マイナス成長やデフレ、大災害が打ち続くということである。もしそうなったら、日本経済や国民生活そのものが持たないだろう。年金制度は、その一部なのだから、どう改革しようと持たないのは明らかだ。経済を立て直さなければ、話にならないというだけのことである。もちろん、日本経済が平時に戻るなら、「今のペース」にはならないことは言うまでもない。

 確かに、年金制度から見れば、積立金を予定外に取り崩したことは痛かった。しかし、そうしないように、マイナス成長やデフレの下で、保険料を引き上げたり、給付をカットしたりしていたら、どうなっていただろうか。経済は更に悲惨になっていたはずだ。積立金は減ったものの、立派に国民ためのお役に立った。どうして、これを批判できよう。経済全体を考えれば、これで良かったのである。

 鈴木先生の改革案は、複雑な会計的な操作を行っているが、要すれば、①相続税の増税、②所得税の増税をして、年金財政に投入するということである。筆者は、前者については賛成だが、後者は経済成長との整合性が問題になる。つまり、年金の都合だけを考えるわけにはいかないということだ。

 既に消費増税は決まったし、復興増税だの、社会保険料の引き上げだのと負担増の予定は目白押しになっている。常識的には、更なる増税といっても、入る隙間はなく、絵に書いた餅になるのではないか。結局、いかに素晴らしい抜本改革案でも、マクロ経済に適合しなければ意味がないということである。

 
※更に知りたい人は、世代間負担の基礎を紹介した、11/28「世代間の不公平を煽るなかれ」や、12/3「世代間負担論の到達点」をご覧いただきたい。また、鈴木先生が望むような「支払ったものがきちんと返ってくる制度」は、積立方式にしなくても実現できる。それについては、やや難しいが「小論第1回 払った保険料が還ってくる年金制度にするには」をご覧いただきたい。経済に整合させた社会保障の改革については、いつもの「雪白の翼」がある。今日は、久しぶりに社会保障について書いたね。


(今日の日経)
 ツアーバス100車超撤退。社説・原発の活断層。外債発行最高ペース、企業は高格付。内部分裂したASEAN・バンコクポスト。ワタミの農業が黒字に。大樹・一体改革の矛盾・吾妻橋。経済教室・積立方式へ移行急げ・鈴木亘。

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