経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済運営・それぞれの死角

2012年12月03日 | 経済(主なもの)
 金融緩和は不況に効く。「だったら、いくらでもやれば良い」と言うのは、経済実態の経験の乏しい者が言うセリフである。需要管理と併せてしないと、ほとんど効果が出なかったり、弊害が起こったりする。この40年の日本経済の歩みは、その失敗を繰り返してきたようなところがある。

 最近の失敗は、小泉・安倍政権下での円安バブルとその崩壊である。日銀の大規模な金融緩和と世界経済の好調さが組み合わされ、円キャリートレードが発生し、大きく円安に振れた。これで輸出が増加し、景気は上向いたが、緊縮財政と組み合わされて、内需が広がらず、デフレ脱出はならなかった。

 構造改革派の人たちは、「成功」としたがるが、筆者には、無死満塁の絶好機に、押し出しで1点取っただけのように見える。成長の加速には、税の自然増収を経済に還元するような思い切りの良さが必要だが、池田勇人や下村治のような強気の人はいなかったということだ。もし、そんな人物がいたとしても、世の雰囲気として、強い批判を浴びたと思う。

 問題は、サブプライムとリーマンのショックで、円安バブルが弾けた後である。日本は、輸出の失速で景気回復が挫折し、内需が薄い中で、最も厳しい景気後退に陥った。ここから、円安バブルに踊って、国内で巨額の設備投資をした電機業界の苦境が始まる。経営の屋台骨を揺るがすような重荷を背負ったのである。それは、エコポイントや地デジでも癒されず、今に至っている。こうした電機業界に対する見方は、北野一さんと同様だ。

 ここから言えることは、金融緩和は決してタダではないということだ。バブルを作っては弾けさせるという変動は、実物経済に悪影響を与える。もし、金融緩和にばかり頼らず、内需を拡大させていたら、「総合」電機であるだけに、こうはならなかっただろう。そして、内需の拡大によって物価が上昇していれば、円安へのファンダメンタルが形成され、円安のバブルは薄らいでいたかもしれない。

………
 金融緩和を論じる上で、もう一つ重要なのは、その経路である。実体経済では、低金利が直接に設備投資を喚起するわけではない。まず、金融緩和は、自国通貨安に作用する。これが輸出を増やし、この外需が設備投資を増やすように作用する。次に、住宅ローンの低下を通じて住宅投資に作用し、その需要が設備投資を促す。設備投資は、需要リスクに強く左右されるので、金利が下がっただけでは動かず、需要が伴って初めて出てくるものなのだ。 

 ここで注意したいのは、自国通貨安は、あくまでも相対的なものだということだ。米国や欧州に金融緩和をやられては、自国通貨安にならない。現下において、やや円安に振れているのは、米国の景気が上向き、欧州の危機が遠ざかっているためであり、これが逆に動けば、元の木阿弥である。また、住宅投資も、度重なる経済対策で先食いが進んでおり、デフレ下の将来収入に不安がある状況では限界があるという問題もある。

 金融緩和は、為替や資産には直接に効き、設備投資には間接に効く。この違いは重要である。金融緩和と緊縮財政を組み合わせれば、バブルの発生と内需の不振が同時に起こり得る。もし、日銀が株式や土地を買いまくれば、相場は上昇するだろう。しかし、それが設備投資に結びつくかは別問題である。資産効果はあっても、緊縮財政をやれば、需要は簡単に相殺されてしまう。不況下の株高は、結局は元へ戻り、それはバブルだったということになる。

 日銀にしても、高値で買って、元へ戻るわけだから、差損が発生する。高値を維持するためには買い続けなければならない。今、日銀が資産を膨らませ、一気の消費増税を迎えたら、どうなるか。日銀が躊躇するのは当然だろう。買うにしても、当座預金に置き換えるだけの効果しかない国債だ。反対に、財政が協調して、需要を拡大していれば、日銀は儲かり、納付金として財政にも貢献できる。これこそが正しい道である。

 また、日銀が株式を買いに入ったあと、金融緩和の中で、買いが買いを呼ぶ自律的なバブルが発生することも考えられる。これが自壊するまで眺めているべきなのか、金融緩和を修正して抑制に向かうべきなのか、日銀は悩ましい選択を迫られる。抑制に向かえば、異様な低金利にある国債金利が跳ねる恐れがある。銀行や生保は、ALMを敷いていると言っても、経営の撹乱要因となってしまう。

………
 最後に、蛇足になるが、需要拡大も、「公共事業を増やせば良い」と安易に考えてはいけない。復興事業で資材が逼迫しているところでやれば、中国や韓国からの輸入を急増させ、せっかくの財政出動が国外に漏れてしまう。日本市場への橋頭堡を与えることにもなりかねない。地デジバブルでの韓国の薄型テレビ、高値の買取制度による中国の太陽光パネルと同じことになろう。「敵に塩を送る」のは立派だとは思うが、感謝はしてくれまい。

 経済運営は、別に難しいものではない。金融緩和と需要拡大と両方をやれば良い。注意したいのは、それぞれに効果があるからといって、片方だけで他を代替できると考えてはいけないということだ。そして、需要を拡大するなら、供給力を見極め、前倒しでやっても将来的にムダにならない分野を選ぶことである。筆者は、それは保育や介護だと思っている。すなわち、多くの人が成長の「敵」だと思っている社会保障である。

(今日の日経)
 高齢者介護入院が最長に。設備投資16%増維持。公約の子ども手当はムダ削減で。霞ヶ関埋蔵金は掘り尽くし。中国、北ミサイルに反対表明。内食強まり、外食どころか中食までも・中村直文。韓国はAESAN経由で中国へ。経済教室・戦争は社会を変える・猪木武徳。

※受け皿の問題。※意外に強いね。※やれやれ、3年前と同じか。※内食とは時代が逆戻りだ。

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