経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・続くゼロ成長ぺース

2015年08月30日 | 経済(主なもの)
 消費が振るわないね。5月並みの水準に戻っても、7-9月期はゼロ成長になる可能性があるとしていたけれど、それに7月は届かなかった。希望は、勤労者世帯の実質実収入で高めの数字が出たこと。よくあるブレとは思うが、8月があまり落ちず、消費性向が戻れば、良い数字もあり得る。むろん、消費が増せば、在庫が減る状況にあるので、成長の確保がなかなか厳しいことに変わりはない。

 日本経済は、一気の消費増税によって、成長が屈折し、ほとんど伸びなくなってしまった。無闇な需要の吸い上げを行った結果であり、成長力を高める戦略うんぬんを語るのが虚しくなる大失態だ。行過ぎた緊縮を緩めるには、政府税調が指摘するように、 若年貧困層の負担軽減策が必要だろう。もともと彼らの税負担は少ないのだから、それは必然的に社会保険料還元型の給付つき税額控除に類するものとなる。

………
 7月の家計調査は、二人以上世帯の実質消費支出(除く住居等)の季節調整済指数が95.1と、良好だった5月に届かないという結果だった。また、これは4-6月期平均と同じ数字だから、ゼロ成長ペースにあることを意味する。消費を支える実収入が伸びていることから、7月の数字だけでは気が早いが、7-9月期の成長の確保は険しさを増した。

 7月の伸び悩みは、勤労者世帯の消費性向が大きく下ブレしたことが要因であるため、今回こそ、マインドの低下だの、天気のせいだのと言い得るものである。逆に、6月には、髄分と「悪天候」が言われたが、このときは、可処分所得の低下、すなわち、税・保険料の増加が大きな要因であり、マインドや天気を持ち出すのは適当でなかった。そんなわけで、「猛暑でも動かない」のは当然である。  

 ちなみに、実質実収入と可処分所得の間には差があり、10-12月期、1-3月期には可処分所得の伸びが0.3ずつ少なかった。この7-9月期に、消費の伸びを、これくらい確保できればと望んでいるわけだから、それなりに意味のある大きさだろう。雇用が回復し、正規が増える過程で、税・保険料が所得増を削ぐのは致し方ないが、ここにも緊縮財政が潜んでいることには留意したい。統計外のマインドや天気を持ち出すのは、数字を見てからで良かろう。

(図1) 家計調査



………
 今回は、供給側の商業動態統計も確認しておこう。7月の小売業を季節調整済指数で見てみると、単月では前月比+1.2であったが、水準では、まだまだであることが分かる。下図のとおり、消費増税後、名目的には増税前の水準を、いったん、取り戻したものの、今年に入って崩れてしまい、7月のプラスでも回復できていない。この傾向は、家計調査と軌を一にしている。景気回復を実感できない理由の一つであろう。 

 一方、こうした消費の低迷にもかかわらず、「雇用はアベノミクスで増えている」ともされる。実際、7月は、労働力調査の失業率は3.3%に低下し、有効求人倍率も1.83倍に上昇している。内容も悪くなく、消費と雇用が食い違っているように見えるかもしれないが、そうではない。これを確認するため、失業率でなく、就業者数の季節調整値をチェックすると、今年に入って、伸びが衰えていることが分かる。

 例えば、2014年には、各月の平均が前年比+39万人だったのに対し、2015年7月までの平均は+18万人に半減している。年度で比較すると、さらに際立ち、2014年度の+38万人に対し、2015年度は+7万人に過ぎない。雇用にばかり目が向きがちだが、就業者には、雇用者ではない自営業者や家族従業者も含まれる。実は、これらは減り続けており、2015年には、雇用者の増加の4割を打ち消している。その分、雇用は伸びても、消費は伸び悩むのである。

(図2) 商業動態



………
 8/28の政府税調では、若年貧困層の現状について、小杉礼子、工藤啓の両氏からの聴取と高田創委員からの報告が行われた。いずれも傾聴に値する内容である。1997年以来の緊縮財政による成長喪失と貧困蔓延を目の前にして、いかに対処すべきなのか。安定的な需要管理と若年貧困層への所得再分配が必要なことは言うまでもない。

 日本は、消費増税ばかりを追い求め、高負担には欠かせない低所得層向けの給付つき税額控除を、とっくに欧米が実施する中で、怠ってきた。財政当局がもう少し無能でなかったら、ここまで事態が酷くなりはしなかっただろう。とりあえずは、2.2兆円もの税収上ブレを手にした今の局面で、どのような「財政」緩和策を取るかである。

 社会保険料還元型の給付つき税額控除が創設できれば一番だが、せめて、母子家庭の母についてだけでも、社会保険料を所得に応じて国が肩代わりできないか。そうすれば、130万円の壁に阻まれ、ダブルワークをせざるを得ない苦境から脱せられる。国民年金保険料の減免制度はあるが、それでは将来の年金は惨めな額になる。苦労して次世代を育てても、老いてまで貧困に喘ぐ、この矛盾。足りないのは、財源ではない、我々の理想である。


(昨日の日経)
 看護・介護の復職しやすく。日経平均561円高、市場動乱ひとまず収束。消費は猛暑でも動かず・7月消費0.2%減、食品値上げ重荷。若年貧困層に負担軽減策を・政府税調。

(今日の日経)
 クボタが全国でIT農業。法人税20%台の綱引き本番。円急騰はヘッジファンド主導。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 8/26の日経 | トップ | 9/1の日経 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Threeb)
2015-08-30 16:38:19
GDPの年報確報値での個人消費の伸びと家計調査の伸びを比較すると家計調査には平均して1%ほどの下方バイアスがあるので、現在、家計調査で横這いということは実際にはプラス成長でしょう。
返信する
世帯増 (平家)
2015-08-31 11:36:23
ご承知の通り、家計調査は世帯平均の値を示すものです。基本的に二人以上の世帯です。サンプルは男性が世帯主である消すがほとんどです。労働力調査で、二人以上世帯の男性世帯主の数をみると、7月は11万人、0.6%増えています。その中でも正規の職員・従業員は22万人、1.6%増えています。他の世帯や、他の構成員であるケースは減っていますが、世帯平均の所得、消費×世帯数で考えた場合、この増加は無視できず、所得、消費は平均値よりも強い動きを示すと思われます。
返信する

コメントを投稿

経済(主なもの)」カテゴリの最新記事