経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

喪失した国家目標のありか

2014年12月07日 | 社会保障
 自民党は「福祉国家の建設」を目標としていたと言うと驚かれるだろうか。そもそも、結党時の「党の綱領」には、福祉社会の建設がうたわれており、1962年夏の所信演説では、時の首相・池田勇人が「働く機会を与え、経済力を実現し、もって福祉国家を建設する」と宣言しているのである。

 目下は長引くデフレにあるから、目標が「まずは景気回復」となるのは自然だが、それを実現したのちに、日本をどんな国にするかの議論がもう少しあっても良いように思う。経済成長それ自体が目標となり、社会保障の縮小は、その手段となるというのでは、目標の喪失感は拭えまい。

………
 一気の消費増税によって、日本経済は2期連続のマイナス成長に転落し、実質GDPは523兆円と、1年前に比べ1.1%、5.7兆円も縮小した。これは、日本の最優先の目標が、経済成長にも、福祉国家にもなく、財政再建にあることを物語っている。その意味で、消費増税で8.1兆円もせしめたのであるから、それだけで、喜ばしいのかもしれない。

 しかし、もし、経済成長を最優先にしていたら、どうなっていたか。2012、13年は1.5%成長であったから、増税をしていなければ、2014年の各期が0.4%、年率1.6%成長になっていたと仮定しても、おかしくはなかろう。すると、7-9月期のGDPは533兆円になっていたはずだ。現実との差は10兆円にもなる。

 国民負担率、すなわち、GDPに占める国・地方税と保険料の割合は約3割なので、何もしなくても、この時に税等は3兆円増していたはずである。むろん、残りの7兆円は、国民が自由に使える。結局、税を5兆円余計に取ろうとするあまり、成長を犠牲にして、国民には、消費税8.1兆円+得べかりし所得7兆円=15兆円の負担を与えたことになる。

 国債の信用は、経済規模に裏打ちされるから、増税しても、GDPを縮小させてしまっては、意味がない。してみると、正確には、日本の目標は、財政再建でさえないのかもしれない。おそらく、地方や社会保険も視野になく、国の一部門における赤字の削減、あるいは、消費増税そのものが自己目的化していると考えられる。

………
 ここで、1.5%という平凡なる成長が、福祉国家の建設に、どんな意味を持つかを見てみよう。社会保障給付費の伸びは、ここ3年(2010-12)を均すと、年率で2.4%である。額にすれば年に2.6兆円増といったところだ。他方、現在のGDPは523兆円であるから、1.5%成長は7.8兆円の経済力をもたらす。すなわち、成長の1/3で社会保障費の増は賄える計算だ。

 日頃、「高齢化による社会保障費の膨張が財政を圧迫し、経済を破綻させる」というような話ばかりを聞かされると、不安が募ろうが、こうして数字を確認するなら、「最悪、0.5%の成長があれば、ニャンとかなる」と達観できるわけである。そして、一部門の赤字だけを気に病み、マイナス成長にしてしまったら、どれほど痛手かも分かるはずだ。

 然るに、日経によれば、民間調査機関の2014年度の成長率の見通しは-0.5%まで落ちた。増税予算を決めた時の政府の見通しは+1.4%であったから、明らかに大失敗である。通貨危機や金融破綻のあった1997年の増税の際とは異なり、不測の事態は「夏の悪天候」くらいだったから、まったく言い逃れできない。これで、中国に異変でもあったりしたら、とんでもないことになっていただろう。 

 成長率については、期間の取り方によって、マイナスにならないとする主張もあるようだが、見苦しい言い訳は、やめるべきである。このカラクリについて、次の10-12月期以降、毎期0.4%成長が続く場合を仮定して表にしてみた。これで分かるように、年度では-0.7%成長になるものの、確かに、暦年では0.3%成長で済む。ところが、その代わり、暦年の悪影響は2015年にまで及ぶ。成長を失わせた事実は消え去らないのである。

(表)


………
 50年の時を経ても、「働く機会を与え、経済力を実現し、もって福祉国家を建設する」というシンプルな国家目標は、立派に通用する。むしろ、変質したのは、私たちである。デフレの中で、成長や雇用の確保に苦闘するうち、福祉国家を重荷でしかないように感じ、財政破綻の脅しから逃れたい一心で、「痛みも必要」と叫びつつ、増税を焦るようになったのだ。

 かの池田勇人は、所信演説を「念願とする祖国の平和と繁栄は、われわれみずからの信念と努力によってのみ達成される」で終えている。この堂々たる国家目標への揺るぎなさは、鮮烈でさえある。これに比して、現在は、増税を焦り、成長も、福祉も、果ては財政の信用までも犠牲とし、ただ自虐を欲するのみである。

 どうして、これを後世に語れよう。この汚名を雪ぐには、大失敗をごまかさず、後の糧とするほかに道はない。ここに至り、成長への戦略がないと嘆くなかれ。戦略も未だしの2012、13の両年に、緊縮の足枷を解かれた日本経済は1.5%成長を果たし、雇用も財政も着実に改善させてきた。そして、その程度の成長であっても、福祉国家の建設は、十分、目標たり得るのである。


(昨日の日経)
 燃料電池車を増産へ200億円。米雇用32万人、ドル円121円台。10月景気先行指数は低下。民間予測・10-12月成長率3.25%、2014年度-0.5%。住宅・価格上昇で販売減。夕刊・イタリア国債格下げ、成長率見通し低下で。

※日本国債の格付けの引下げも、増税延期だけが理由でなく、成長率低下もあるようだ。

(今日の日経)
 円の実力40年で最低。大都市不動産に地銀資金、地価の一因。読書・経済行動と宗教。

※明日はGDP2次が公表されるから、表は1日の命だ。単純だが、こういうイメージを頭に置くと、IMFの2014年は0.9%成長といったものに、日経も引っ掛からずに済もう。見る目を持って、日本の若手エコノミストをプロモートしてほしいね。

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