経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

平凡に我慢できぬが人の常

2011年12月11日 | 経済(主なもの)
 いつも書いていることだが、日本に欠けているのは、平凡な経済運営である。成長を予想し、それを妨げない範囲で着実に財政再建を進めなければならない。しかし、現実には、財政赤字が大きいというだけで、いくらでも増税や緊縮ができると思い込み、無理な財政運営を行って、成長を落としている。それが国民生活を苦しくし、財政再建さえ遅らせているとは気付かないようである。

 2010年度に、日本の財政当局は14兆円の緊縮財政を試みた。その結果、年度後半に成長は失速し、デフレは止まず、円高を招いてしまい、慌てて4.4兆円の補正予算を組む顛末だった。2%弱の成長が当たり前の日本経済で、それを超える規模の所得の吸い上げをしたら、変調を来たすことは、常識でも分かることだろう。

 続く2011年度、日本の財政当局は、前年度補正後と比較して、4.9兆円の歳出の緊縮を試みた。3月11日に震災があったが、一次と二次の補正では、実質4.5兆円の追加しか行わなかった。大きな経済ショックがあったのに財政出動をしないという異様な経済運営をしたために、復興は停滞し、デフレが長引き、厳しい円高を呼ぶ背景となった。

 追い込まれた財政当局は、10月末から11月にかけて、9兆円もの為替介入を行い、政府の債務を一気に膨らませた。また、復興予算のはずの三次補正に、2.5兆円もの円高対策を潜り込ませざるを得なくなり、四次補正では、更に2.5兆円規模の対策を追加しようとしている。無理な財政運営が反動を呼び、かえって財政を悪化させる典型である。

 おそらく、2012年度は、復興需要もあって、高めの成長になるだろう。しかし、その後に待つのは、一気の消費増税である。アクセルの後は、また急ブレーキだ。経済運営のセオリーは需要の安定であるのだが、日本は、その逆を行く。こうした極端なストップ&ゴーの運営をしていては、経済が疲弊してしまう。

………
 どうして、日本は、平凡な経済運営ができないのだろう。セオリーどおりの経済運営をするだけで、成長も財政もかなり好転するはずだ。別に、痛みを伴う改革をせよと言っているのではない。むしろ、痛みを伴うような極端は避けろと言っているのであり、常識的なことをするだけなのである。

 常識が日本で通らない第一の理由は、財政当局が、実際の歳出規模や税収を仮装・隠蔽するからである。当初予算をアピールするのみで、補正後の歳出規模を説明しないし、意図的に低い税収見通しを立て、自然増収を分からなくしている。そのため、前述のような財政運営になっているとは、誰も意識していない。もし、分かっていたら、とても賛同が得られないような稚拙なものである。

 第二に、財政当局が宣伝に使っている「国の借金はGDPの200%」といった話は、巷に溢れ返っているが、肝心の歳出規模の動向や税収の見通しなどは、まったく議論されないことである。財政当局が情報操作をしているとは言っても、少し調べれば分かる事柄である。財政破綻を声高に訴える人は多いのに、極めて奇妙な光景である。財政赤字を憂うのではなく、財政当局への追従を望むかのごときだ。日本の新聞や有識者の責任は重い。

 第三に、経済界が、景気回復を望むのではなく、円安と法人減税を求めることである。それらが手に入るなら、日本経済など、どうなっても良いと思っているようにすら感じられる。経済界が景気回復を求めなくなって久しい。内需の成長には見切りをつけ、収益を確保し、輸出と海外投資ができれば、それで十分と考えているのだろう。

………
 これらの構図の下では、財政当局と経済界との間に歪んだ結託が生じる。財政当局は緊縮財政と消費増税を認めてもらい、経済界は為替介入や法人減税をしてもらうという関係である。今回の税制改革の過程では、自動車業界向けの減税や補助金が用意されたが、これも同じ文脈で理解することができる。 

 震災復興の三次補正の際は、財政規律を守ると言って、3000億円の所得税の臨時増税を決めるのに、被災者を雪が降るまで待たせたのに対し、同じ3000億円規模の自動車重量税の減税は、あっさりと決まった。何かと言うと「悪い金利上昇が起こる」という日経も口をつぐむのは、そういうわけである。

 問題なのは、こうした取引には、マクロ的な不合理があることだ。財政当局の内需削減は、デフレを促進して円高を招いてしまうし、経済界の法人減税は、税収に大穴をあけてしまう。マクロ経済に無知であるがゆえに、お互いに利益を交換したつもりが、不利益を与え合うという、意図とは反対の結果になる。

 無理な財政運営をして、成長を落とし、デフレにし、円高にし、輸出産業を壊しておきながら、一転して、為替介入、円高対策、法人減税でテコ入れすることで、一層財政を悪化させてしまう。戦略目標である成長を見失い、緊縮や増税の戦術ばかりを弄していれば、当然にこうなる。戦略的失敗を認めず、戦術で糊塗しようとして泥沼にはまり、破綻を招くというのは、歴史上で何度も繰り返されてきた。その列に日本も加わろうとしている。

………
 国が傾きだして不安が広がると、失敗した戦術に意固地にすがり付いたり、奇策が世間を賑わせたりするのも常である。「日本破綻を防ぐ2つの方法」という本では、ひたすら増税や負担増を求めたり、財政破綻に賭けてドルを買うヘッジファンドばりの策が示されている。日銀が桁外れの金融緩和をすれば、円高やデフレが解決するという論も、それに類したものだろう。

 内需を安定させて設備投資の増加を待つ「成長戦略」とか、成長の範囲内で着実に進める「財政再建」とかの平凡な政策は、ますます人々の耳には入らなくなった。危機のときには、一発逆転の派手な政策が期待され、痛みを伴うようなものが魅力を持ちさえするのである。平凡に徹するというのは、なかなかどうして、容易ならざることだ。知恵も勇気も必要なのである。

(今日の日経)
 日中韓FTA交渉へ。タクシー車両が低水準。社説・税制大綱。風見鶏・真珠湾の教訓・秋田浩之。東南ア大手銀が融資穴埋め。中外・電波競売。脳手術ロボ。読書・戦後日本インドネシア関係史。災害公営自由宅の年内着工ゼロ。前日夕刊/老人ホーム新設急ぐ。韓国企業の減速感が鮮明。ソロスが欧州国債購入。

※タクシー枠を入札にかけ、落札金を運転手の福利に当ててはどうか。※自動車重量税の減税3000億円は、石油石炭税の増税2500億円との引き換えにすべき。日経は自動車業界には甘いね。※国防総省歴史局か。90年代後半の消費増税&法人減税は、したことすら忘れられているよ。※役所にも利益がないと動かんということか。※やはり高台は難しい。

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