経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

やはり特会は良くない

2011年12月25日 | 経済
 2012年度は2.2%成長なのに、税収が今年度補正後のベースから0.3兆円しか伸びないとするのは、あまりに少ないと批判してきたが、日本の財政当局は、単に過少見込みをするだけでなく、もう一つカラクリを仕込んでいた。税収の自然増は、とことん隠蔽したいようである。こんなことをしていると、財政運営を見誤ることになりかねない。

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 それは、復興特会への税収の直入である。2012年度に復興特別税が始まるが、その分の0.5兆円を一般会計には計上せず、直接、復興特会に入れている。つまり、実際は、合わせて0.8兆円の増収だったのだ。特会だからといって、直入しなければならないわけではなく、筆者は、一般会計に計上してから復興特会に繰り入れるものとばかり思っていた。財政の基本は、「入るを計りて」である。これでは肝心なことが分からなくなってしまう。

 財政当局は、復興特会を設けたいわけではなかった。特会は、財政状況の把握が複雑になるとして、廃止統合すべきものとしていたからである。それでも復興特会が設けられたのは、三次補正の与野党折衝の過程で、協力と引き換えにされたからだ。それを税収増の隠蔽に「活用」するのだから、お役人というのは、転んでもタダでは起きないものらしい。

 おそらく、数年後、復興の歳出が一段落すると、復興特会には黒字が発生することになる。復興債を償還していくのだから当然ではあるが、一般会計は赤字、復興特会は黒字となって、非常に分かりにくくなる。プライマリーバランスのラインをどこに引くかといった問題も起こる。やはり、特会は良くない。せめて、交付税特会などのように、一般会計に計上してから繰り入れるべきだろう。

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 2012年度予算案の決定を受けて、各紙は社説を掲載しているが、いつものことながら、財政当局の情報操作に、手もなくやられている。財政を見るイロハは、税収のチェックであるのに、ほとんど言及しない。今回、財政当局は、補正後の税収見込みをベースにすることで、「0.3兆円しか増えない」という宣伝に努めたが、これに引っ掛かったようだ。

 補正後の税収見込みは42.0兆円だから、これに成長率の2.2%を掛け、財政当局がよく使う「税収への換算値」の1.1を乗ずるという計算をするだけで、1.0兆円増という数字が簡単に出てくる。おかしいとすぐに気づかなければならない。復興特会分を含めると0.8兆円にはなるが、これでも少な目である。実際には、2兆円程度まで伸びるだろう。

 また、当初予算ベースで見るなら、公表資料でも、前年度から1.4兆円増えていることが読み取れる。復興特会分を加えると1.9兆円になる。実際には、消費税の1%分に当たる2.5兆円は楽に超えるだろう。だからこそ、隠蔽される。来年度に限らず、2%程度の成長で、消費税1%分に相当する税収増があると分かれば、消費増税の切迫感が薄れるし、税収増に加えて一気に消費税を3%も上げることの危険性が知られてしまう。

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 今回の財政当局の宣伝戦略は、批判を年金財源の交付国債に集めることだった。すべての批判を避けようとするのではなく、叩いてほしいところに誘導するのは、プロパガンダの常套手段である。交付国債への批判は、その財源の確保手段となる消費増税を後押しすることにもなる。また、国債依存度が最悪の「49%」という、普通なら計算もしない「悪い指標」を作り、アピールしたのも特徴だ。見慣れない数字なのに、ほとんどのマスコミが食いついた。

 昨日も指摘したように、2012年度に、こうなったのは、「埋蔵金」が減ったからである。また、税収を過少に見込んだ上、法人特別税を特会に出したためでもある。こうして意図的に作られた「悪い指標」を見て、なぜ、嘆かなければならないのか。筆者には、さっぱり分からない。今回、分かったのは、日本は、ますます管理の難しい仕組みを作り、役に立たない指標を不安がるようになったということだけだ。

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 その一方、予算のゆとり度を表す予備費は、まったく注目されていない。2012年度は、本来の予備費3500億円のほかに、経済危機対応予備費が9100億円も用意された。前年度より1000億円の増だ。概算要求段階の9600億円から500億円減ったが、おそらく、土壇場で沖縄振興予算を500億円積み増したためだろう。そのせいか、日本再生枠は1兆577億円と、半端に飛び出た額になっている。経済予備費は、基礎的財政収支の一部であり、大事がなければ、使われず、財政再建に貢献する。むろん、これも「49%」で用意されたものだ。

 また、国債費は、今年度1.3兆円も余らせたが、2012年度は更に0.4兆円積み増しされた。「49%」の内には、こんなものもある。これだけ余裕があれば、長期金利が今の2倍の2.0%を超えても賄えるし、先の経済危機対応予備費を回すなら、3.0%でも大丈夫だ。さらに、日本の場合、他国にはない12兆円もの償還費が計上されており、大きなバッファーになっている。償還費は、借金して借金を返す、ある意味、無用のものだが、これも「49%」を膨らませている一因なのである。

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 日本人は、基本中の基本の「税収」をロクに確かめない上に、歳出のムダにはうるさくても、予算管理上の「水膨れ」には無頓着である。それでいて、国債依存度という、無意味なものには注目する。財政当局に乗せられるままで、自身の見識がないからだろうが、また一つ、海外で説明するには何とも厄介な「日本の不思議」が出来てしまった。

(今日の日経)
 医療費明細を電子照合。日印がドルを相互供給。社説・日本再生の看板が泣く野田予算案。国家公務員は初の純増なし。年金減額2段階で。国家公務員人件費5.1兆円、地方は21兆円。復興は補正と合わせ18兆円。ODA0.3%増。防衛費1.3%減。住宅ローン・金利下げ競争。環境税関税実施で2623億円。地方税収0.8%増。中国指導部枠に拡大論。化学のチカラ台頭。温暖化で増えた南極の雪。サルはアルツハイマーにならない。

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