経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

機に乗ずるための問題の発見

2013年03月17日 | 経済
 現実には、問題を解くことより、見つけることの方が重要になることが多い。良い問いを設定することこそが、困難な状況を脱する早道となる。世の中では、新しい正副の日銀総裁が決まり、次の金融緩和策に注目が集まっているが、筆者の見所は、その先にある。大胆な金融緩和さえすれば、緊縮財政でも脱デフレは可能なのか、そろそろ、次の論点を考えるべきではないだろうか。

 岩田規久男先生は、衆院の所信聴取の中で、「成長で税収を上げてから、消費税増税で遅くない」と語っているし、浜田宏一先生は、自民党での講演で、「増税しても歳入が増えるとは限らないというのが橋本政権のときに行った増税以来の答え」と述べている。お二人は、金融緩和だけで良いと考えているように見えない。そもそも、安倍首相の所信演説には、「消費税」という文字はないのだ。

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 先日の経済教室は吉川洋先生だった。1月に出た「デフレーション」のさわりの部分をまとめたような内容だったが、物足りなさを感じた。その理由は、マネーサプライを増やす「だけ」ではダメだとしても、どうすればデフレを脱せるのか、ハッキリしないところにある。吉川先生は自他共に認めるケインジアンだが、「技術革新が必要」とするのでは、古典派の処方箋と大差なくなってしまう。

 デフレの原因は賃金の下落であり、賃上げと製品値上げが鍵になるというのも、通常の景気循環のパターンを無視したものである。景気回復局面において、賃金や雇用は遅行するもので、牽引役ではない。やはり、先導する設備投資をどうやって引き出すかという、古くて新しい問題を考える必要がある。ケインジアンであれば、それは需要と設備投資の関係になるだろう。

 「デフレーション」で、吉川先生は、ケインズの「貨幣論」を引き、マネーサプライを増やすことで資産価格を上げることはできても、モノやサービスの価格を上げる道理はないとする。これには筆者も共感するところがある。アベノミクスは、前者の段階にあり、浜田先生が言うように、資産効果を通じて後者に及ぶかは、これからである。高級品が売れ出し、百貨店の既存店ベースがプラスになってはいるが、小売全体からすれば、わずかに過ぎない。

 他方、吉川先生の「モノやサービスについては、数量が数量を決める有効需要の原理があてはまる」という主張は、一般の人には循環論法に見えるのではないか。モノやサービスの価格は生産費用で決まり、それは名目賃金と素材価格に因るのだとしても、賃金は労働需要次第なのだから、それを生み出す設備投資がどう決まるかになってくる。景気拡大の起点をどこに見るかは、とても重要な問題である。

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 経営者は需要を見て設備投資をするし、設備投資は需要拡大の起点になるから、需要と設備投資は、ニワトリとタマゴの関係になる。どちらが先なのか、決着がつかないように見えるが、そうでもない。設備投資は、需要が底を打っただけで出てくるからだ。需要の減退という最大の投資リスクが取り除かれると、低金利や低賃金といった要素が本来の効果を発揮する。これで需要が上向くと、逆に、投資しないことが競争上のリスクになるため、投資増と需要増の循環は、徐々に加速していく。

 昨年の春頃から景気後退は始まったが、これは円高による輸出の停滞、エコカー減税目当ての生産増からの早めの調整、前年の震災によるボーナスの減少、扶養控除廃止などの所得削減が重なったものである。これらの要素は秋頃には底を打ち、衆院解散の頃には、機は熟していた。ここでアベノミクスを唱えたのは見事で、解散時期に息切れする景気対策をしていた民主党とは比べるべくもない。

 安倍政権の今回の賃上げを巡る動きにしても、震災翌年の実績に従い、前年より上向くのは分かっていたことだが、機に乗ずるのも才覚である。むろん、設備投資の回復は始まったばかりで弱々しく、これを大事に育てていかなければならない。円安・株高もまだ期待先行で、実態経済は本当に初期段階にある。そして、新年度になると、いよいよ1年後の消費増税が経営者の視界に入ってくる。

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 岩田、浜田の両先生は、期待を重視する方だ。1年後に需要ショックに襲われるのが分かり切っている中で、経営者が積極的に設備投資をするものかどうか、量的緩和によって長期金利を抑え込める自信があるほど、経営者の期待が気になるはずである。しかも、従来の日銀や有識者と違って、財政当局に遠慮がない。国際的に見れば、一気の増税で0%台の成長に叩き落す経済運営は常軌を逸しているし、米国や世界の経済にもマイナスになる。

 消費増税は既定路線のように見え、財政当局は、参院選が終われば、どんな苦い政策も国民に呑ませられると期待しているだろう。しかし、選挙がなくても支持率が落ちれば、思い通りの政治はできない。問題が見つかり、アジェンダがセットされれば、物事が動く環境は醸成されているように思う。あと日本に足りないのは、FTのウルフやロイターのカレツキーのように、緊縮財政の危険について現実感を持つコラムニストがいないことくらいかね。

(今日の日経)
 石炭火力を推進、環境相も合意へ。社債金利1%割れ最多。インドネシア輸入規制広がる。地球回覧・大学中退での起業を支える米国社会。読書・世界経済史・キャメロン。

※農産物への輸入規制は稚拙、エネルギーに課税したいところ。※アメリカ的だね。

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