経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

マクロ政策と雇用の在り方

2013年01月27日 | 経済
 日本総研の湯元健治さんたちが出した「北欧モデル・何が政策イノベーションを生み出すのか」は、非常に示唆に富む本だ。民間シンクタンクのメンバーが政策論を深める成果を世に問うたことに、まずは賛辞を送りたい。今日は、第1章の労働市場に関して、いくつかコメントをしてみたい。

 山田久さんが執筆した第1章の結論は、労働移動を進め、マクロ的な賃金調整を機能させ、それを積極的雇用政策で支えるというものだ。労働力の流動性を高めて成長につなげる考え方は、オーソドックスなものだろう。その中で、興味を引いたのは、金融政策のインフレ・ターゲットがマクロ的な賃金決定に及ぼした影響である。この一番おいしい部分を、もっと掘り下げたら良いと思う。

 スウェーデンの場合、インタゲがあるために、労働側が無理な賃上げを強いてインフレを高めてしまと、金融引き締めの発動によって景気が減速し、結局は雇用条件を悪くすることになる。この見通しが自制につながり、物価や賃金を安定させるというわけだ。また、景気回復期には、組織率の高い労働組合が賃金を引き上げる力を発揮する。では、日本の場合、マクロ政策は、どんな影響をもたらしているのか。

………
 日本のマクロ政策の特徴は、輸出依存のゴー&ストップ運営である。景気が悪いと、金融緩和で円安を誘導し、財政出動も行う。これによって輸出を中心として回復に向かうのだが、早々に緊縮財政へと転じ、内需への波及を断ち切ってしまう。そして、デフレ脱出にもたつくうちに、円高へと局面が変わって牽引力を失い、不況へと逆戻りするというものだ。

 例えば、リーマン・ショック対策を打ったところまでは良かったが、底入れ後、管政権は、前年度より10兆円も少ない財政運営を試みて、景気を失速させ、円高を招いた。昨年の野田政権は、震災復興で消費に勢いがあったのに、国民負担をかけ、補正予算を遅らせて、景気の停滞を招いてしまった。

 これを企業から見ると、不況が酷いと政策は発動されるものの、一息つくと悪化や停滞が見通せるので、設備投資や雇用拡大は最小限にしておこうとなる。できるだけ非正規にして雇用調整を容易にしておくのは言うまでもない。成長に向けて人的投資をしようとも思えないし、不況続きだから、人の確保は容易で、代わりはいくらでもいる。

 安倍政権は、大胆な金融緩和を掲げて、円安局面を作った。しかし、今度の「大型」の補正予算を通しても、2012年度予算は、せいぜい前年度と同じくらいになるに過ぎない。そして、日経が報じるように、2013年度予算は、あとで何もしなければ、大幅な緊縮になるものにセットしている。秋の補正予算で追加するつもりはあろうが、それを当てにして、企業が投資や採用をするわけにはいかない。需要が現れるまで様子見になるのは当然ではないか。

 日本の企業は、資金を溜め込み、海外を除けば投資もしないし、賃金も増やそうとしないと言われる。マクロ経済のゴー&ストップ運営の下では、そうせざるを得ないのだ。これまで打って出た勇気ある者は、軒並み討ち死の憂き目に会って、もはや死に絶えているかもしれない。繰り返される間に構造化してきているのだ。

………
 山田久さんは、スウェーデンは雇用調整が早く賃金調整が遅い、逆に、日本は雇用調整が遅く賃金調整が早いと的確にまとめている。今の若手がこれを見ると、直感的にスウェーデンの方向へ行くべきと思うかもしれないが、日本の在り方が評価されていた時代もあった。残業やボーナスの調整による賃金の伸縮性が短期的な景気変動には対応しやすく、雇用維持が、特に製造業などで、人的蓄積をムダにしない点でメリットがあるとする見方である。

 むろん、こうした「人を大事にする経営」は、日本経済の成長が前提だ。逆に言えば、成長しないことを受け入れ、雇用の在り方を変えるべきなのか、それとも、マクロ経済の運営の方を変え、成長を確保すべきなのかという議論にもなる。どうすれば成長させられるか分からないから、雇用を変えようとは、筆者は考えない。 

 また、山田さんは改革の「先送り」に問題意識を持っているようだが、ある程度の成長がないと、新しい産業を興すことも、不良債権を処理することも難しい。筆者は、不況期には資金や人材が余るから、経済の新陳代謝が行われるとは思わない。むしろ、好況期に盛んになるものだ。さらに言えば、雇用が流動化しなくても、企業が変わっても良いはずで、例えば、いまや東レの繊維比率は1/3であり、化学会社へと変身している。

 積極的雇用政策の言葉は美しいが、今の日本で成果を上げているのは、清掃、警備、介護といった仕事への就職である。産業構造の転換というイメージからは遠い。むろん、待遇が良いとも言えないし、介護、保育、看護といった「成長」産業は、日本がどれほど社会保障費を増やせるかにかかっている。それには成長がなければ、税も保険料も確保できない。

………
 エコノミストには馴染み深い雇用関係の経済指標の遅行もあって、筆者は、雇用の在り方を変えることが成長確保の政策手段になるとは思えないでいる。成長が先にあって、その妨げにならないよう、雇用の在り方を変えて行くものではないのか。少なくとも、労使の賃金調整機能の強化は、緊縮的な財政運営をカバーできるものではないし、財政再建最優先のゴー&ストップの不安定な経済運営を当たり前と思う現状では、成長するものもしないだろう。スウェーデンの試みを、そのまま日本に持って来れない最大の理由は、そこにある。

(昨日の日経)
 新設火力稼動を前倒し。円91円台。アルジェリア方式。スティグリッツがアベノミクスを評価。中国軟化に米の影・高橋哲史。円安・購買力平価で95円。新規国債42.8兆円、税収43.1兆円、政策経費70.4兆円、経済予備費0.9兆円全廃。利払費22.2兆円。公共事業進捗5割。地方公務員給与減7月。ECBに17兆円返済。国内建設受注9.87兆円3.7%増、官公庁2.75兆円17.5%増。外食は製造小売りへ。節度ある取材を申し合わせ。

※税収が低すぎる。減税0.3兆円分を乗せても43.4兆円。2012年決算額と同程度ではないか。2013年度の経済見通しが2.7%成長なら1兆円は上ブレしよう。利払費も過大なままだ。

(今日の日経)
 製造業の温暖化ガス14%減。一般会計92.6兆円。ゲーム1000年枯渇を克服。アジアから米国・秋田浩之。インドネシアとの軍事協力競う。読書・宗教のレトリック。学力向上に退職教員ら7000人派遣。

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【ガジェット通信】寄稿依頼 (ガジェット通信編集部)
2013-01-28 18:28:01
お世話になります。ガジェット通信編集部と申します。

私どもは、『ガジェット通信』というウェブ媒体を運営しております。
http://getnews.jp/
こちらのブログ記事を、興味深く読ませていただきました。

この記事を、『ガジェット通信』に寄稿という形で掲載させて
いただきたいのですがいかがでしょうか。

尚、掲載の際には、元記事へのリンクも貼らせていただきます。
ご検討いただき、下記アドレスへお返事をいただけるとありがたいです。

post2012@razil.jp
以上、よろしくお願いいたします。
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ガジェット通信編集部
http://getnews.jp/
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