経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・2年続きでのゼロ成長も

2015年08月02日 | 経済(主なもの)
 4-6月期GDPの予測は、民間試算の平均で年率-1.9%になった。本コラムが「アベノミクス・再失速」としたのは5/3のことだったが、ようやく世間も追いついてきた。1-3月期GDPは、物価低下と在庫要因で高かったが、その時には消費に異変が生じていた。大機でカトーさんが言うように、消費増税の後遺症は重い。もし、第一生命の新家さんの予想どおり、4-6月期GDPが前期比-0.7になると、2015年の成長率はゼロ%台前半が射程になる。アベノミクスは、2014年の-0.1%成長の惨敗に続き、またも成長を失う事態へ追い込まれる。

………
 6月の家計調査が明らかになり、4-6月期の2人世帯の実質消費支出は、「除く住居等」の季節調整済指数で、前期比-1.6という低落ぶりだった。これだと、消費総合指数の6月は4月並みのレべルにとどまり、前期比は-0.6くらいだろう。そのままの数字でGDPの消費が減るとなると大変だ。ちなみに、新家さんの予想は-0.3である。

 もっとも、4-6月期の消費の悪さは、たまたまの面がある。4月と6月の下振れが大きく、消費を支える勤労者世帯の実質実収入は、前期比+0.1となっている。つまり、消費性向が下がっており、大きく戻す可能性を持つ。したがって、消費への評価は、昨年12月以来、まったく伸びない状態になっていると認識するのが正しい。なお、商業動態統計は、4-6月期の季節調整済指数の前期比が、卸売業で-2.2、小売業で+0.2だった。小売業は、1-3月期が-2.1だったことからすれば、弱いものである。

 こうした失速状態は、今後、どうなるのか。増税によって消費水準を落としたので、企業は供給を増やそうという動機に乏しい。かといって、落ちた水準から、更に需要が低下しつつあるわけでもない。企業の収益と景況感は崩れていないため、極めて緩慢なペースで投資と雇用が増し、それに連れて消費が増税前水準を取り戻したあたりで、ようやく加速するのではないか。

(図)



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 次に、鉱工業生産は、4-6月期が前期比-1.3となり、高い伸びだった1-3月期の+1.5のほとんどを吐き出す形となった。特に出荷が-2.5と減りが大きく、在庫は+1.0とピークを更新した。この在庫の高まりは気になるところで、在庫調整のために、生産が低下し出すようだと、景気は失速から後退へと転落する。8月の予測指数は+2.7と高いが、7月の+0.5の低い後で、生産日数も少ないため、好材料と思わない方が良かろう。

 消費財の出荷を見ると、家計調査と同様、4-6月期は-2.4という落ち込みぶりである。ここでも、1-3月期の+2.7を吐き出す形になった。消費財は、生産が-1.8と、鉱工業生産より強く減産がかかっており、これで在庫が-4.3と大きく減じた。そうしたことが、輸出の停滞に伴って、投資財にまで起こりはしないか心配である。

 設備投資に関しては、資本財(除く輸送機械)の出荷が前期比-2.6と、大きく低下し、1-3月期とは反対に、GDPの足を引っ張る側になりそうである。資本財(同)は、前期との比較では大きく低下したが、これは1月に跳ねたことが影響しており、傾向的には、堅調に推移している。建設財は、出荷が底入れしたものの、需要項目としては小さい。

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 続いて、雇用を点検する。6月の労働力調査は、比較的、良い結果であり、失業率は、3.4%と0.1上昇した反面、就業者数の季節調整値の前月比は34万人と大き目の数字である。ただし、女性が増加の8割を占め、医療・福祉が対前年同月比で+50万人と、偏りが見られる。最近の景気ウォッチャー調査や消費動向調査で雇用に陰りが見られるのは、こうしたことが理由かもしれない。

 職業紹介では、有効、新規の求人倍率とも、前月から横ばいだった。ただし、有効、新規の求人数を見ると、季節調整値の前月比で、-0.7%、-0.4%と低下している。労働需要の水準は高いにしても、それが強まりつつある感じはない。余談だが、いつの間にやら、有効求人倍率で最下位が定位置の沖縄県が脱出に成功している。内外の観光客の急増が強みになっているようだ。

 残る毎月勤労統計の公表は、来週である。5月確報で、実質賃金は、ようやく、対前年同月比0.0%に漕ぎ着けた。6月はボーナスも始まるため、もう少し上がってほしい。常用雇用が対前年同月比2.0%で足踏みをしている状態にあるだけに、なおさらである。常用雇用は、前年が春から夏にかけて加速したので、この水準を守れるかがポイントになる。

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 さて、4-6月期GDPは、外需もマイナス要因になりそうであり、内需の以上のような状況を踏まえると、大幅なマイナス成長は、誰の目にも明らかだ。もし、4-6月期が-0.7%成長になると、2015年の成長率は、残り2四半期が消費増税前トレンドの+0.4%に戻ったとしても、0.3%成長にとどまる。増税イヤーの2014年の成長率は-0.1%だったから、2年かけて、わずか0.2%しか増えない計算だ。

 トレンドと比較すると、GDPは年額で16兆円もの差がついた。消費増税をしていなければ、これだけパイが大きくなっていたということである。消費増税とは、ほぼ変わらぬ大きさのパイを、民間から政府へ、より多く切り分ける政策だった。パイが大きくなっていれば、その3割の5兆円は、政府のものになっていたから、3兆円多く政府に分けるだけのために、16兆円を捨てたことになる。

 GDPの発表は、1次速報が8月17日、2次が9月8日である。マイナス成長の失態が露呈したところで、安保法案の採決というタイミングであろうか。そうなると、安倍政権の評判が大きく下がることは避けられず、安保から経済へのチェンジオブペースが求められよう。ここで、TPP対策の農業予算とか、公共事業の追加とか、定番のバラマキをするのでは、かえって逆効果になる。

 そんなことをするより、社会保険料還付型の給付つき税額控除の検討でも、総理が指示したらどうか。10%への消費増税は、2016年秋に決断しなければならず、その前の夏には参院選がある。食料等の軽減税率は数千億円にとどまりそうで、何らかの国民負担の軽減策が要るのだから、配偶者控除の改革や130万円の壁の問題と絡めて、国民的大議論を喚起すれば良い。仕上がりの形がどうなるにせよ、世の中の気分は一新される。権力の源は、アジェンダの設定にある。


(7/24の日経)
 日経、英FTを買収。ピアソンから1600億円 経済メディア世界最大。

(昨日の日経)
 TPP交渉が最終攻防。税インフラ世界122位。外為特会剰余金3.4兆円、財投特会1兆円。GDPマイナス予測、民間試算平均1.9%減。中国の株価対策は強硬に。大機・やはり影響大きい消費増税・カトー。

(今日の日経)
 TPP先送り、日米誤算。

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