経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

公的年金は1.6兆円の緊縮財政

2015年02月22日 | 社会保障
 年明けに予算案が国会に提出されても、大きく報じられたりはしない。年末の予算編成の際に概要が明らかになっていて、新たな内容は少ないからである。しかし、一つ重要な情報が含まれている。これで緊縮の度合いが確定するのだ。2015年度の年金の特別会計の緊縮は1.6兆円であった。前年度補正0.8兆円、国の一般会計4.4兆円、地方財政1.2兆円と合わせ、8.0兆円となり、前年の3%消費増税に匹敵し、原油安メリットを丸ごと吹っ飛ばす規模に及ぶことが判明した。

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 経済運営は、国、地方、社会保険の三部門すべてを見て行うのが基本だ。全体的に管理しなければならないなんて、常識でも分かる話だが、日本は、これがなっていない。財政再建の議論のベースになっている『中長期の経済財政に関する試算』に、社会保険が含まれていない一事をもっても、明らかであろう。

 この弊害は甚大だ。日本は、1997年に消費増税を中心とする過激な緊縮財政を行い、デフレ経済へ転落した。実は、当時、社会保険が大き目の黒字を出しており、全体的には焦る必要は何もなかった。ところが、国の赤字だけを見て異様なほどの緊縮を敢行し、成長を壊してしまった。それで、本物の財政危機に陥ったのだから、愚行も極まれりである。

 悪癖は、いまも変わらない。一つひとつをバラバラに決め、あとで合わせてみると、驚くような事態となっている。現場はスゴいが、戦略はお留守という、いつもの日本的な構図である。1997年の反省で設けられた経済財政諮問会議は、財政再建のボールを追いかけてばかりだ。政治やマスコミといったチェックする側もタテ割りに慣れ切っていて、総合的見地から批判する者がいない。

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 さて、愚痴はこのくらいにして、数字を見ていこう。基になるのは、『平成27年度予算及び財政投融資計画の説明』の特別会計の章である。今回は、紙幅の関係から、厚生年金勘定に絞って説明する。ここが緊縮の規模を把握するポイントと考えるからだが、一般の方は、これだけでも煩雑に感じられるかもしれない。

 厚生年金勘定の主な歳入は、保険料収入、一般会計受入、基礎年金受入の三つであり、主な歳出は、保険給付費、基礎年金繰入の二つである。この差を、積立金の取り崩しと、積立金を運用するGPIFからの収入で調整する形を取っている。あとの雑多な項目は、簡単化のため、残差として割り切ることにした。なお、2015年度からは、共済年金との一元化のため、実施機関の拠出金・交付金という項目が追加されている。

 リーマンショック前の2008年度から2015年度までの推移を示したのが下の表である。2015年度の主な歳入の小計は、名目成長率を背景に、高めの伸びとなっている。他方、主な歳出の小計は、特例水準の引き下げもあり、抑制的と言えるだろう。そして、大事なのは、この差の4.2兆円の赤字であり、前年度より1.6兆円縮小した。これを公的年金の緊縮の大きさとしている。

 こうした収支の改善で、今年度は、「積立金よりの受入」という名の取り崩しが前年度より2.9兆円も少ない。また、GPIFにおける高運用を期待し、0.8兆円の納付増を見込んでいることも特徴である。収支の改善は、年金財政としては結構なことだが、それは、民間のお金を吸い上げ、景気の好循環にブレーキをかけていることも意味する。

(表)



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 今年の景気を占う上で、最も注目を集めているのは、原油安による事実上の「減税」効果である。1/23の月例経済報告では、原油価格の50%下落で、輸入金額が7兆円減り、名目GDPを1年目に5.6兆円、2年目に8.2兆円押し上げるとされている。これだけのボリュームがあれば、持てはやされるのも当然であろう。

 一方、これと同じくらいのインパクトがあるのに、緊縮財政の実態は、指摘されることもない。年金はともかく、国と地方の財政については、公債金の減額の大きさとして、それぞれ公表されているにもかかわらずである。そして、トータルでは8兆円と、消費税3%の8.1兆円に匹敵し、原油安の効果を丸ごと吹っ飛ばすような大きさになっている。

 税収の見積もりは、いつも控え目であり、実際は、予算の数字以上の緊縮になるであろう。保険料も、これまでの決算の傾向からすると、予算より上ブレしがちである。結局、原油安のメリットは、緊縮財政が食い尽くしてしまい、あとは、賃上げと雇用増がどのくらいになるかで、今年度の経済成長が決まることになる。

 なるほど、政府経済見通しの民間消費は、前年度比2.0%増と、2012暦年の2.5%、2013年暦年の2.1%よりも小さい。これだけ原油安のメリットがあるのに、変わり映えがしないのは、そういうことなのだろう。やはり、アベノミクスの実態は金融緩和と緊縮財政の組み合わせであり、成長は民にお任せのようである。


(2/20の日経)
 日経平均15年ぶり高値。2014年の賃金18年ぶり伸び率、女性と非正規も改善。電力が4月値下げ。原油安で家計一息。家計簿データを協力世帯に還元。大機・論壇で消費税は腫れ物扱い・カトー。
 ※おっしゃるとおりですよ、カトーさん。

(昨日の日経)
 新エコカー燃費40キロ。諮問会議での日銀総裁の隠された直言。1月-0.7%コンビニ復調の兆し。年金抑制はデフレなら停止。ウォルマート賃上げ。

(今日の日経)
 社外取締役を2人以上に。ギリシャが4か月延長に合意。

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