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経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

7-9月期GDP1次・消費の変動で分かること

2017年11月19日 | 経済
 イギリス史はひととおり知っていたつもりだったが、ブレイディみかこさんの『労働者階級の反乱』は、下から見た歴史が描かれていて新鮮だった。そして、いかに緊縮財政が政治の変動をもたらしたかが軸になっている。財政は、良かれ悪しかれ経済を動かしてしまい、政治や社会を変えていく。さらには意識までも。それは日本とて同じであり、7-9月期GDPにも影を落としている。

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 実質1.4%成長となった7-9月期GDPへの一般的評価は、4-6月期の高成長の反動という見方だろう。確かに、4-6月期に高く伸びた消費がマイナスになり、マイナスだった外需が伸びて成長を埋め合わせた。しかし、そうした「波がある」というだけで、消費の変動はかたづけられない。以前も指摘したように、消費は追加的需要と関連性が強い。住宅投資、公共投資、輸出の3需要が増えると、所得が上がり、消費が伸びるというシンプルなメカニズムである。つまり、消費における4-6月期の伸長と7-9月期の縮小は、追加的需要の反映でもある。

 具体的には、公共投資は、4-6月期に+5.8%で、7-9月期-2.5%と大きく変動した。輸出は、これとは逆に-0.2%と+1.5%と推移した。輸出が逆に動いても、消費が公共と同じ方向に動いていることは、公共の消費に対する影響力の強さを表している。ボリューム的には輸出が公共の3倍以上であるにもかかわらずだ。こうした「公共がこけると、消費もこける」パターンは、昨年10-12月期にも観測された。したがって、消費を増やし、物価を引っぱりたいのなら、公共をぞんざいに扱ってはいけない。当たり前と言えば、当たり前だが、当たり前のことが見えなくなっているのが現実である。

 公共投資は、ムダの象徴とされて久しい。1997年のハシモトデフレ前と比較すると、既に半減しているが、未だに「公共事業を減らせば、財政は再建できる」といった、数字を見ない言説がまかりとおる。昔の政治に対する反感が今も残っているのだ。そこは価値観だから、仕方のない面もあるが、消費に影響するメカニズムは、依然として存在する。本当は、公共をただ切るのではなく、代りの用意まで必要だった。今度の補正予算では、人的投資などへの切り替えができるのであろうか。

(図)



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 アベノミクスの本質は、緊縮財政、金融緩和、規制改革の新自由主義で、選挙対策に、財政出動と再分配をまぶすものである。旧来の自民党政治は、この逆で、積極財政、金融引締め、競争制限をベースに、時として自由化へ応じるものだった。意外に思われるかもしれないが、アベノミクスは、国民政党らしくない、反自民党的なものである。こうした変化は、米英と同様、1980年代以降、一つひとつ逆転が進んだ結果である。

 問題は、新自由主義では、インフレは防げるものの、成長が弱く、格差が開いてしまうことである。需要がないと、設備投資はなされず、資産投資ばかりで、庶民の生活は、なかなか向上しない。こうした実態は、自由の結果というイデオロギーで「見えない化」される。そして、反駁の言葉を持ち得ない庶民が怒りに任せて「反乱」を起こすのである。

 7-9月期GDPでは、物価上昇による名実の乖離も目立った。民間消費は、名目-0.4に対して実質-0.5であり、設備投資が+0.6に対し+0.2、住宅投資が-0.2に対し-0.9と、それぞれ実質値は低くなってしまう。輸入だと-0.4が-1.6にもなる。GDPと国内需要のデフレーターは、前期は共に-0.0だったものが、7-9月期は+0.3と+0.2へ上昇した。それゆえ、名目だと2.5%成長と4-6月期に続く高成長ぶりなのに、実質では1.4%にとどまり、減速した形になる。むろん、この背景には、異次元の金融緩和が招き入れた円安と原油高がある。

 円安や金融緩和が善というのも、ある種のイデオロギーで、実際には、場合や程度による。海外が好景気で企業収益が高く、国内消費が弱いなら、極端な金融緩和はせず、円高方向へ導くという政策を取るべきだが、主義が邪魔して、そうもいかない。また、株高が進むようなら、日銀は、緩和路線を守ってETFの買い入れを続けるのではなく、売りに回るべきだろう。株でバブルを作らないことが、むしろ、金融緩和を長持ちさせる。むやみな株高は、法人増税をちらつかせてでも抑え込む必要がある。

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 11/16の日経社説は「外部環境に揺さぶられない強い経済を」だった。外部に左右されぬよう、国内経済も再生する必要があるとするのは良いが、求めるものが規制改革では、とてもおぼつくまい。財政の需要管理が稚拙で、公共投資は行き当たりばったり、金融政策は内需を萎ませる円安一本槍では、再生できるものも、てきなくなってしまう。日本には、イギリスと違って輸出という決定的な武器がある。それがまだ生きているうちに、輸出から所得増・消費増へ、内需拡大に向けた好循環を回していかなければならない。

 ブレイディみかこさんによれば、イギリスではコービンの労働党が反緊縮を「未来への投資」として打ち出し、労働党内の路線対立に乗じて圧勝を試みたメイ首相の保守党を総選挙で過半数割れに追い込んだという。翻って、日本の野党は、アベノミクスの表面的な批判に終始し、本質を分からぬまま、穴だらけの需要管理や単調な金融緩和の代案を示せなかったことが結果を分けたように思う。7-9月期の雇用者報酬の前年同月比は、名目なら+2.1%を保っている。ここからの舵取りが重要となる。


(今日までの日経)
 日銀総裁、副作用言及。デフレ脱却へ4指標プラス。復職者を即戦力に。米低学歴層に広がる絶望死。

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