経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本で言うところの戦略力

2012年11月24日 | 経済
 先日、熊野英生さんの「年金の特例水準の解消に隠れる問題」を読んでいて、自分がスケジュールを勘違いしていることに気がついた。特例水準とは、「もらい過ぎ年金」と言われるもので、物価下落時に年金を引き下げなかったために、2.5%高いままになっていることを指す。先の臨時国会の解散のドタバタの中で、引き下げの法案が通ったばかりだ。

 筆者は、2013年~15年のそれぞれ10月に、間隔をおいて引き下げるものと早合点していたが、正しくは、2013年10月、2014年4月、20115年4月である。国民の嫌がることは、来年夏の参議院選の後に先送りするのが狙いだとされる。おそらく、これを考えた人は、戦略的にスケジュールを設定できたと、ほくそえんでいるだろう。

 しかし、これは日本経済にとっては、命取りになる。なにしろ、7.5兆円の消費税3%アップに加え、公的年金のデフレ圧力を1.5兆円もかけようというのだから、尋常でない。来年10月の年金1%カットで5000億円、同時期の保険料アップで5000億円、わずか半年後の消費税アップと同時に、再び年金1%カットで5000億円である。

 元々の法案は、トータル2.5%の引き下げを3回に均等に分けていたのだが、御丁寧に前がかりに固めてカットすることに改められている。今年から実施する予定だったものを1年先送りする代償を取るつもりなのだろう。実は、カットが始まる2013年は、3年に一度、支給開始年齢が引き上げられる年でもあり、このデフレ圧力もかかってくる。

 安定的な需要管理の観点からは、頭を抱えるような計画だ。おまけに、2013年1月には復興特別所得税3000億円が、2014年6月には復興特別住民税600億円が加わる。2014年ともなると、震災から3年が経ち、復興事業も収束していく。バラバラに決めた数々のデフレ促進策が重なって実施されるという、経済運営でやってはいけない見本のようなことが始まる。これは、1997年のハシモトデフレとまったく同じ構図である。

 消費税の実施に際しては、一応、景気条項というものがある。名目3%、実質2%の成長は、困難な情勢だが、消費増税を決める来年秋頃は、夏までの景気指標で判断するから、「努力目標は満たしていないが、景気は上向き」などと言って、実施を決める可能性が高い。参院選後は3年間選挙がないから、民意を無視することは容易だ。

 そして、今のスケジュールでは、増税決定後に年金のデフレ圧力が襲うことになり、景気変調の不安の中で、迫り来る増税に恐怖しつつ、2014年4月の消費増税を迎えることになるだろう。日本の財政当局の「絶対に消費増税を逃さない」ための戦略力には、舌を巻くばかりである。日本には、卓越した「戦略力」が備わっているようだが、どうも使い方が分かっていないようだ。

 財政当局のお得意は、「増税すると将来の安心から消費が増える」という説だが、高齢者世帯は貯蓄率がマイナスだ。年金をカットすると、安心してもっと貯蓄を取り崩すようになるのだろうか。今年は、子ども手当のカットと年少扶養控除の廃止で1兆円の負担増をかけたら、春から消費は変調をきたした。貯蓄ができている現役世代でもこうである。そして、慌てて景気対策のバラマキをしようとしている。ストップ&ゴーの極めて稚拙な経済運営だが、誰も反省していない。

 筆者は、特例年金の解消にも、消費税のアップにも賛成である。だが、それは、成長を阻害しない範囲内で「戦略的」に行うべきものだ。成長を失速させては、元も子もない。財政の健全さは、税率ではなく、GDP比率で図られるべきものである。増税にかける恐ろしいほどの政治的な戦略力と、平凡な経済運営さえ、まともにできない経済的な戦略力のコントラスト。結局、国益が何なのかの「定義力」が欠けているのである。

(今日の日経)
 地銀・信金の自己資本の劣後債を除外。実効税率はアマゾン31%。復興予算の流用批判の一部凍結。米年末商戦はや消耗戦。早期訪中はやるフランス。仏格下げが欧州の火種に。弘前大院生の論文が米物理学会誌に。

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