経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

子供の貧困対策とアベノミクス

2015年10月25日 | 経済
 『子どもに貧困を押しつける国・日本』(山野良一著)は、タイトルを見て告発調なのかなと思ったら、基本になる数字を、よくある疑問に即して丁寧に説明した良書であった。同時に、厳しい生活に置かれる子供たちの声を紹介しつつ、数字の意味するところを浮かび上がらせている。最近の政策動向にも触れており、社会問題に関心のある方はもちろん、アベノミクスの行方を知りたい人にも、手に取ってもらいたい一冊である。

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 豊かなはずの日本で、子供の貧困率は16.3%と、6人に1人にも上る。一世代前の1985年には10.3%であったから、6割増しになっている。特に、1997年以降は、貧困線の所得が下がる中で、貧困率が上昇しており、一層、深刻である。これは、消費増税でデフレに突っ込み、雇用が悪化して、非正規が大きく増えたことが背景になっている。一昔前の低失業率で若年層には仕事があった時代とは、様相が一変している。

 ある意味、日本においても、若年層に失業がはびこる「欧米化」が進んだとも言えるだろう。そこで問題になるのは、山野さんが指摘するように、再分配前の所得では、先進諸国と比べて、それほど不平等ではないのに、再分配後になると、大きく順位が下がることだ。つまり、日本における子供の貧困は、経済の変化以上に、社会保障の対応の不十分さが理由になっている。

 そうなったのも、1997年の大規模な緊縮財政で、日本経済をデフレに突き落とし、却って財政赤字を悪化させ、社会保障を新なた分野に広げる余裕を失わせたからだ。こんな失敗がなければ、子供に関する社会保障の充実は着実に進められ、少子化が続いて成長力を落とすこともなかったろう。日本の財政当局は、一人で経済も社会も壊し、何重にも国民を苦しめている。

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 しかし、今、一つの転機を迎えようとしている。おそらく、2015年度は5兆円規模の補正予算が組まれる。2016年度以降も、アベノミクス新第1の矢の名目GDP600兆円を目指して、穏健な緊縮財政に路線転換がなされると、補正を一挙にやめる選択肢はなくなり、2020年度まで、2.5兆円程度は維持する必要が出てくる。すなわち、事実上の恒久財源が生まれるのだ。アベノミクスが新しい第2、第3の矢に再分配の政策を掲げるのは、偶然ではない。

 子供に関する社会保障は、あれもこれもみすぼらしいが、一つ改めるとすれば、進学支援がある。貧しい子供の高校進学率は低く、中退率は高く、専門学校や大学への進学は著しく見劣りする。これを解決しなければ、貧困の連鎖を断つことができない。そのためには、例えば、高校の3年間に15万円ずつの「奨学金」を出し、卒業して就職や進学を果たしたら、返済を免除するといったことが考えられる。

 貧困状態にある子供は約330万人、1学年当たりで約18.3万人であるから、これに要する予算は、たったの824億円である。山野さんの著書にもあるように、生活が厳しい家の子は、弟や妹を助けるため、自分の進学の望みをあきらめ、身を捨てて尽くしている。これが低い進学率が意味する現実だ。そうした悲しい自己犠牲を強いないようにし、辛い涙を流させないため、どうしても必要なお金である。 

 補正予算を社会保障に使うなどあり得ず、そのとき限りのバラマキに終始し、これを毎年繰り返してきた。そうした財政当局の手前勝手な理屈と見通しのなさを変えねばならない。貧困削減の数値目標を掲げたとしても、当初予算で自然増を下回るキャップをはめられれば、子供の貧困対策のために、難病対策を削るか、障害者施策をやめるかということになりかねない。補正でのバラマキとは対照的である。

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 来年は参院選がある。消費税の軽減税率では、その代わりに社会保障関連の自己負担額の上限を設ける低所得者対策を見送るようだ。野党に知恵があるなら、同じ財源で低所得者に2.5倍手厚くできる給付金方式を、マイナンバー抜きで増税当初に一律支給する形に変えて、ぶつけて来るだろう。こちらの方に合理性があるだけに、政策論争では適わず、人気を博すのも難しい。いよいよ劣勢となれば、増税延期に追い込まれるのではないか。

 やはり、消費税を2%も上げながら、軽減税率をするのは、根本的矛盾がある。それくらいなら、1%にとどめて、軽減税率の論争を避け、それと同時に、補正予算の2.5兆円分を恒久的財源と位置づけ、軽減税率の本来の趣旨の低所得者への再分配に充てるべきである。その際、子供の貧困対策は象徴的な課題となる。こうした状況を早く見て取った側が主導権を握り、選挙での勝利を得ることになるだろう。 


(今日の日経)
 東芝が旧経営陣を提訴へ。足踏みする国内投資・滝田洋一。

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