経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・消費が死んだ もう立てない

2014年08月03日 | 経済(主なもの)
 今回の家計調査の結果で判明したのは、消費の惨憺たる状況だった。これは反動減の大きさを言っているのではない。消費増税によって、勤労者世帯の実質実収入の低下が前期比で-4.0にも達し、消費は今年度内に駆け込み前の水準には戻らないことが確定的になったのである。今年度はマイナス成長を覚悟しなければならない。残念ではあるが、もうアベノミクスは立ち直れまい。

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 現在の消費の落ち込みが反動減に過ぎず、これから戻って来るか否かは、消費性向を見れば分かる。分母の収入は安定しているので、駆け込みで分子の消費が伸びると消費性向は上がり、反動減で下がり、結局は元へ戻る。実際、10-12月期に75.1だった消費性向は、1-3月期に79.0になり、4-6月期には73.1になった。だから、あと2.0ポイントくらいは、消費の戻りが期待できる。

 問題は、この半年間に、勤労者世帯の実質実収入が-4.0も落ちていることだ。むろん、その最大の原因は消費増税であり、加えて円安による物価高の浸透だ。したがって、戻すと言っても、実質消費支出の季節調整済指数は、4-6月期の92.9を+2.0ポイント上回る94.9程度であろう。この戻り先の94.9という水準は、足元の6月の93.4より1.5ポイント高いだけであり、2013年度平均の100.4と比べれば、5.5ポイントも低い。

 つまり、あと9か月の間に、消費が5%も成長して初めて、やっと前年度の平均に回復するということである。むろん、消費が伸びるには、収入増の裏付けも必要だが、これから収入が5%も増して行くとは、誰も思っていないだろう。ベースにした10-12月期の消費性向75.1は、この数年では高めの水準であり、消費性向の上昇で、これほどのギャップを補うことは、およそ考えられない。

 念のため、調査対象の広い「二人以上の世帯」も見てみよう。4-6月期の実質消費は、94.0であり、同様に+2.0ポイント戻したとしても、2013年度平均の100.4とは4.4ポイントの開きがある。そもそも、「世帯」のうち、半分が勤労者で、1/3が無職であり、無職のほとんどは高齢者で占められる。昨年末から年金を1.7%カットしておいて、消費の伸長を望むのは、無理があろう。

(図)


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 ここで、収入の実態を確かめるため、毎月勤労統計を押えておく。広く報道されたように、6月の実質賃金の前年比は-3.8%に落ちた。賃金が「水面下」のままでは、消費が去年を超え難いことは、言うまでもない。6月の毎勤の注目点は、賃上げ浸透とボーナス増の度合いだったが、給与総額は名目で前年比+0.4%であり、うち所定内は+0.3%、特別給は+0.4%のアップにとどまった。日経が旗を振る割には、「こんなものか」といった程度である。

 夏のボーナスの支給は、毎勤の賃金指数で分かるように、6月が多い。7月に遅れて支給するのは中小が多く、「ボーナスの高い伸びで消費回復」という期待は、ハズレに終わりそうだ。しょせん、ボーナスが多かったのは、全体の3割に過ぎない大企業の勤労者に限られるのだ。

 その一方、給与総額の伸びは2か月連続で鈍化し、時間外労働は減少傾向にあり、所定外給与も下がって来ている。消費増税のために、6月の鉱工業生産は、在庫が急増し、生産調整が始まっているが、毎勤でも裏付けられた形だ。1997年の消費増税の時に起こった、消費減→生産減→収入減→消費減のスパイラルが始まりかけている。

 唯一の救いは、常用雇用が前年比+1.5%と加速したことだ。加えて、「正規化」の良い兆候も見られる。雇用増を差し引けば、マクロ的な実質賃金の減少は、-2.3%まで縮まることになる。とは言え、雇用は遅行指標であり、これだけ賃金と消費が減退する中で、雇用が伸びを保ち続けられるか、予断を許さないところである。

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 最後に、GDPの今後を占っておこう。それには、GDPの消費とフイットする、内閣府の「消費総合指数」の発表を待ちたいところだが、家計調査の「除く住居等」や販売統計の小売業の感じからすると、6月は前月比+0.4の106.8くらいにとどまるのではないか。これを前提にすると、4-6月期の平均は106.1と、前期比-5.1になる。これは、1-3月期の+2.5の2倍を超え、駆け込みの「貯金」をすべて吐き出す形だ。

 4-6月期の106.1という数字は、2013年度平均の109.0から2.9も少ない。アベノミクスが始まった2013年1-3月期からの消費総合の前期比は、1.2、0.9、0.3、0.5と尻下がりではあるが、平均0.7ポイントの高い伸びを記録した (GDPの消費の前期比は1.1、0.7、0.2、0.4、平均+0.6%と、消費総合の動きと同様)。 こうした勢いが続くと楽観的に見ても、前年度平均に復帰するだけで1年以上かかる。2014年度は、水面下が長いために、前年度比-1.9に沈む。

 こうして見れば、2014年度のGDPの消費が大幅なマイナスとなる可能性は極めて高い。少なくとも、そうなる軌道上にある。夏の政府経済見通し(年央試算)においては、1.2%成長とされ、その寄与度は、消費0.2、設備投資0.7、住宅-0.1、公儒0.1、外需0.1なっていた。もし、消費総合の前年度比が-1.9になろうものなら、消費の寄与度は-1.0を超すので、当然、マイナス成長へ転落する。

 逆に、政府見通しのレベルに持ち込むためには、3期連続で3倍速の2.1増で伸ばしていくか、あるいは、7-9月期に一気に3.5伸ばす「超V字」回復を果たして、あとの2期を0.7ずつ行くかになる。しかし、最新の内閣府の「消費税率引上げ後の消費動向等について」を見ると、「3倍速」や「超V字」どころか、7月も前年比のマイナス幅が遅々として縮まらない有様だ。

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 アベノミクスは、4月の消費増税までは快調だった。1%アップにとどめておれば、憂いもなく、今年度の成長を展望できただろう。しかし、結果は、早くも消費は「死に体」となった。1-3月期にもしやと思わせた設備投資の盛上りも失速し、円安なのに輸出増も緩慢なままである。成長を支えるのは、消費減退に伴う在庫増と輸入減だけという惨めさだ。

 おそらく、7、8月の経済指標が揃う9月末には、もう望みがないことは、誰の目にも明らかになろう。「消費税10%の判断を12月に」と悠長なことは言っておられず、秋の臨時国会では景気対策の補正予算の編成を迫られよう。復興特別所得税分の免除といった減税をするにしても、急がねば年末調整に間に合わなくなる。早くアベノミクスの敗戦処理に取りかからねばならない。


(一昨日の日経)
 電機の大幅増益相次ぐ。平均寿命男80歳超え。夏のボーナス7.19%増・大手。実質賃金6月3.8%減。5大銀の最終益19%減。経済教室・知的業務の公共調達・福井秀夫。

(昨日の日経)
 中小減税など廃止・縮小、法人減税財源に。空き家撤去へ税制改正。米雇用20.9万人。軽自動車13か月ぶり減。住宅資材底入れ10~12月以降に。

(今日の日経)
 90億の胃袋を満たせ。70歳以上の医療費上限上げ。社説・世界経済の変調に備え足場固めを。欧州デフレ懸念、非ユーロ圏にも波及。イケア・週12時間の正社員。

※変調を来たしているのは日本なのだが、財政健全化をしろということらしい。
コメント (11)
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