経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

君は経済構造を見たか

2013年12月07日 | シリーズ経済思想
 日本人は「経済構造」という言葉が好きである。むろん、その後には「改革」と続く。困るのは、人によって、言うところの「構造」が違っている上に、最も基本となる「構造」については知らなかったりすることだ。その基本とは、GDPに占める消費ないし貯蓄(=投資)の割合である。この高さが成長率を規定することになるので、極めて重要な数字である。

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 GDPは消費と貯蓄の二つに大分されるから、消費率が7割なら貯蓄率は3割という関係になる。したがって、消費率を見ることは、残りの貯蓄率を観察することと同じ意味を持つ。そして、基本的に貯蓄=投資であり、貯蓄と投資の割合が高いほど成長率は高くなる。たくさん投資すれば、勢い良く伸びるというのは、直感的にも分かるだろう。

 このことは、あまりに基本的すぎて、成長論の講義でも説明を省き、すぐにソローの成長モデルに進んだりするから、盲点になっていたりする。消費率を下げ、貯蓄率=投資率を上げることで、成長を加速させられることの重要性を認識し、実際にデータを眺めてみること、これが極めて大切である。

 それでは、日本経済60年の歩みを消費率の図で示そう。これは名目GDPを使って算出してある。この総消費率とは、民間消費率に政府消費率を加えたものだ。途中で接合があるのは、GDPの基準が変更されたからである。基準変更によって、保健医療関係の消費が民間から政府に移されたため、民間消費には段差が生じている。



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 この図から何が言えるのか。それは、グラフの上昇や下降は、景気の局面を示していることだ。消費率が下降することは、投資率の上昇を意味するので、成長は加速する。1970年代までの高度成長期を見ると、神武・岩戸景気の過程で大きく消費率が低下し、高度成長の経済構造の基礎が確立されたことが分かる。その後、東京オリンピック頃に踊り場を迎えたものの、続くイザナギ景気で更に加速化された。 

 高度成長は、1971年のドルショックで退潮が始まり、1974年のオイルショックで終焉した。その後もズルズルと消費率は上昇し、1983年に転換点を迎える。実は、バブル景気に至る出発点はここである。この頃、レーガノミックスによる対米輸出の急増によって、日本経済は成長の加速化に成功する。神武、岩戸、イザナギと、こうした輸出からの加速は、何度も繰り返された「勝ちパターン」である。

 バブル景気は1991年に終わるが、興味深いのは、揺り戻しは1994年までだったことだ。それ以降、消費率は1997年まで小康を見せる。おそらく、その後の輸出増の経済環境を考えると、何もしなければ、いつも通り、成長が加速し、消費率は低下していっただろう。そうならなかったのは、ハシモト・デフレという「構造改革」が行われたためだ。

 1997年(図の矢印)を境に、高投資・高成長の構造は失われて、日本経済は一変した。輸出という追加需要によって高成長の構造を実現してきたのとは反対に、急激な緊縮財政で需要を抜き、低投資・低成長の構造にしてしまった。日本経済は、取られた政策に対して、素直に反応したのである。そして、これによる雇用の悪化は、社会と政治をも変質させた。この時点で「戦後」は終わったと言える。

 この後、2002年~2007年の小泉政権期に、消費率は小康状態を見せる。米中への輸出景気によるものだ。これほどの輸出があれば、以前なら、消費率が低下する本格的な好景気になってもおかしくないが、そうならなかったのは、並行して緊縮財政が取られたからである。このチャンスを逃したツケは大きく、リーマンショックで米国のバブルが弾けると、消費率は一気に高まって、経済構造は一層悪化することになった。

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 巷間、「成長戦略」が喧しいが、高成長には高投資の経済構造が必要であり、それには、追加的需要→設備投資増→相対的な消費減という過程を経なければならない。常識と違い、投資促進策を並べても、大した効果は望めない。かの橋本政権も「経済構造改革」と称して、資金供給、技術振興、規制緩和に取り組んだが、緊縮財政の方が遥かに決定的な力を発揮し、意図とは逆の結果になっている。 

 もはや、日本経済の消費率、すなわち、経済構造は、高度成長の開始前の水準にある。来春、一気の消費増税を行えば、これは更に悪化するだろう。そうすると、また昔のような、生産力に乏しく、過剰労働力に悩み、貿易赤字に苦しむ時代が訪れるのであろうか。一つ言えるのは、かつて、日本は、そこから知恵と勇気で脱したということであり、今再び、愚行と焦燥によって転落しようとしているということである。

(今日の日経)
 インフラ整備に個人資金。新興国は課税強化に躍起。社会保障給付費11年度107兆円。薬価は1.4%程度下げ。米雇用11月20.3万人増、失業率5年ぶり7.0%に特殊要因も。米消費0.3%増、所得0.1%減。家電・駆け込みで勢い。

※極端な法人優遇は長続きしないよ。※雇用は良いが、消費が気になるね。
コメント (1)
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