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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

村上朝日堂の逆襲

2015-11-12 21:06:47 | 村上春樹
村上春樹/安西水丸 平成元年発行・平成18年改版 新潮文庫版
うーん、これ、単行本(1986年刊行)持ってたんだけど、どこいっちゃったんだろう、みつからない。
しばらく前に、手元にないことに気づいて、しかたなく文庫を買った、平成23年の23刷。
週刊朝日の連載で朝日新聞社から出てたから朝日堂だったのに、新潮文庫からぢゃ朝日堂の意味がわからない。
それはいいとして、表紙は前の単行本と同じ、インディ・ジョーンズなのがうれしい。亡くなった安西水丸画伯の画。
なかみは、いま読み直すと、村上さんも若くてナマイキだったころのものだから、それがそれなりに活き活きしてる。
「村上は厚あげを毎日三枚食べるらしい」という噂が自身の耳に入って、どうしてそんな話がって相手に訊いてみると、雑誌のインタビューでそう答えてたと言われる。そこで、
>いくつかインタビューを受けると、質問というのはだいたい同じようなものだから、退屈でときどき口からでまかせの出鱈目を答えてしまうのである。(略)
>こんな風に世の中をなめて生きていると今にひどい目にあいそうな気がする。とにかく僕のインタビューはあまり信用しないで適当に読んで下さい。
なんて告白というか宣言をしている。いまだったら、こんなことは言いそうにない。
個人的な感触では、村上さんが誠実にインタビューに答えだしたのは、外国で大学のクラスをもったりしたあたりではないかという気がする。
外国といえば、この本の発行された時点では、
>僕は車の運転というものをしないし、また車という物体にもさして興味が持てない。(略)
>世の中にひとつくらい車の一台も走っていない町があってもいいのではないかと僕は思う。(略)どこかにそういう町があったら、僕は是非住んでみたい。
と言っていて、これはとても強く印象に残ってたもんだから、その後、海外に拠点を移して生活しているときに書かれたもので、車を運転している、それもこういう車がいい、みたいなのを読んだときには、とても驚かされた。
そういえば、ついこないだ『職業としての小説家』を出版し、小説を書くことについて詳細を語ってた村上さんだが、この本では、
>僕ももちろん文章を書くにあたってはいくつかの個人的信条を持っている。(略)
>そういう僕の個人的信条をひとつひとつ書き出すとずいぶん長くなるし、あまり意味があるとも思えない。読み物としても多分、面白くないと思う。
なんて書いている。約三十年後に、ずいぶん長い読み物として、書きあげられたものは、十分おもしろかった。
デビュー作と第二作についても、
>そういう小説を今読みかえしてみると、小説の構成がかなりぶつぶつに分断されていることがわかる。一日に一、二時間しか書く時間がないから、そろそろ気分が乗ってくるかなというあたりで「今日はここまで」とちょん切られてしまうわけである。(略)
>最初の小説を出したとき一部の人から「斬新だ・クールだ」という好意的な評を受けたけれど、これはもうひとえに生活環境のなせるわざである。(略)
と、その制作舞台裏を明かしている。
さてさて、それはそうと、前回の『にょにょにょっ記』では、著者の歌人穂村弘さんの発想のおもしろさに感心したんだけど、本書でも村上さんの発想のユニークさがいくつかあって、そういうとこは好きである。
たとえば、
>知りあいがバーを開くので店名を考えてくれと言うから「大砂漠」というのを提案したら即座に却下された。
>「あのね、〈大砂漠〉なんていうバーにいったい誰が入ってくるんですか?」
>「でもさ、俺なら入っちゃうね。中がどうなっているのかちょっと見てみたいもの」
なんて一節は、昔もいまもフェイバリットである。
あと、中野区内で「春樹求む」って貼り紙を見たと編集者に教わって、
1)春樹という名が好きな美女がいる
2)金持ちの老婦人が戦争で死んだ息子と同名の男に莫大な遺産を残そうとしている
3)誰かが「春樹」拡大家族を求めていて全国の春樹が親交を深める集いがある
4)「春樹同盟」というコナン・ドイルの「赤毛同盟」を模倣した犯罪計画がある
のいずれかかと想像をたくましくする章もおもしろい。
バレンタイン・デーの翌朝に、路上でハート型の大型チョコレートがいくつかぐしゃぐしゃに踏みにじられていたのを見つけても、
1)女の子からいっぱいチョコレートをもらった某イラストレーターが、妻への愛を確認するために全部踏みにじった
2)鏡餅を割るのと同じように、儀式としてのチョコレート割りが定着した
3)チョコレートを恋人に手渡そうと道を歩いていた女性が前後からライオンと豹に襲われた
4)チョコレートだと思ってかじってみたらハート型カレー・ルーだった
とか、いろいろ考える、発想が豊かだ。で、それを、
>しかしこういうことを考えていると一日があっという間に過ぎてしまう。
とシレッと言ってるとこがおもしろい。

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