LOVE STORIES

Somebody loves you-J-POPタッチで描く、ピュアでハートウォーミングなラブストーリー集

幻想即興曲 5

2017-03-28 14:45:56 | 小説

より続く)

 村野百合香1st CD「ショパンの調べ」の曲目と演奏時間は次のようなものだった。

1.ワルツ 第1番 作品18                           5:21

2.ワルツ 第3番 イ短調  作品34-2「華麗なる円舞曲」  4:57

3.ワルツ 第6番 変二長調 作品64の1「子犬のワルツ」   1:59

4.ワルツ 第7番 嬰ハ短調 作品64の2 嬰ハ短調          4:03

5.エチュード 第12番 ハ短調 作品10の12 革命      2:13

6.エチュード 第3番 ホ長調  作品10の3 別れの曲    4:30

7.ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品66 英雄        6:26

8.マズルカ 第5番 変ロ長調 作品7の1            2:01

9.プレリュード 第4番 ホ短調 作品28-4           2:36

10. プレリュード 第7番 イ長調 作品28-7           0:50

11. プレリュード 第15番 作品28-15 雨だれ        5:59

12. ノクターン 第2番 作品9-2                  4:28

13. ノクターン 第20番 嬰ハ短調 (遺作)               4:34

14.  幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66                  5:02

TOTAL Playing Time  54:59

 

 全14曲合算すると1時間に満たない演奏時間。そのうちの数曲はあっという間に弾けるだろう。だが、残る数曲はこのテンポで弾けるまで、狂ったように練習をしなくてはいけない。とりわけ苦戦しそうなのは、エチュードとポロネーズ、そして幻想即興曲だった。

 

 家にある楽譜を調べてみると、ほとんどの曲は小学校のころ買ったきり弾かずに終わったショパンアルバムに入っている。入っていないのは、5の革命のエチュード、7の英雄ポロネーズ、9と10のプレリュードだけだった。革命のエチュードと英雄ポロネーズはピアノピースで揃え、前奏曲のみまるごと本になったものを買うことにした。

 

 村野楽器は、かつては2、3店舗きりの小さな楽器屋だったが、今は仙台、東京、名古屋、大阪、福岡など全国展開している大手の楽器店に成長し、特に輸入物の中古ピアノの販売で売り上げを伸ばしていた。言うまでもなく、村野百合香の父親村野次郎が経営者だ。むかしは地元の店の店頭で見かけ言葉を交わしたこともあるが、今はピアノの隠れた名器を求めて、日本全国どころか世界中を飛び回っているので、顔を合わす機会もほとんどない。やはり楽器は、相応の弾き手がいないことには、状態の良しあしは分かっても、その楽器としての性能はわからない。優れた弾き手が二人もいることが、村野楽器店のアドバンテージにつながっていた。スタインウェイは言わずもがな、ビンテージもののベヒシュタインや、ベーゼンドルファー、さらにはショパンが愛奏したプレイエルに至るまで幅広いピアノの販売で定評があった。

 

 最近白髪か増えたのを気にしている店員の小林さんと会釈を交わし、クラシックの楽譜のコーナーを探す。24のプレリュードはすぐに見つかったが、ピアノピースの方は目当ての曲にたどりつくまでが大変だし、結構欠番や品切れが多い。けれども、さすが人気曲だけあって、英雄ポロネーズや革命のエチュードは欠番にも品切れにもなっていなかった。

「田中くん、今日は、ロックじゃないだね」

「あれは知り合いのバンドのキーボードが抜けて、頼まれたから一時手伝っていただけで。まあ、昔取った杵柄というか、リハビリと言うか」

「百合香ちゃんがコンクールで優勝したから煽られたんでしょ」

 ぼくは答えなかったが、昨日の今日だしバレバレだった。レジの後ろには、百合香のコンクール優勝の雑誌記事の切り抜きが、張り出されていたし、手書きのポップとともに十枚ほど百合香のCDが脇に積み重ねてあったから、隠しようもなかった。クラシックのCDは、結構人気のあるピアニストでも売れる数はわずかで、強気でまとまった数をプレスしたものの在庫を大量にかかえさばくのに大変だったという噂もよく耳にする。やはりコンサート会場でサイン会を兼ねて売るのが一番効率のよい売り方のようだ。

「そのうち、他の曲も弾きたくなるでしょうから、ポロネーズやエチュードも本ごと買った方がいいと思うんですけどね」

「その時はその時。厚い本は持ち運ぶと重いし、ページが閉じないようにするのに一苦労なので、これでいいですよ」

 昔は数百円で買えたクラシックの楽譜本も、今は由緒ある作曲家の曲集は千五百円から二千円程度はするようになっていた。本音を言えば、昨日花を買ったし、懐がかなりさびしくなっていたのだ。

「なるほど、さすが餅は餅屋ですなあ」

 小林さんは、千円買うごとに一回スタンプを押してくれる昔ながらのポイントカードを返しながら言った。20回分のスタンプがたまると500円引き。渋すぎる。

(続く)

 


『幻想即興曲』 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9,10,11,12,13,14,15,16,17,18

『ペーパーリレーション』 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10,11-12,13-14,15,16-17, 18, 19

『ホワイトラブ』 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19 

 
 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関わりありません。

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小説
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