18 祭りの終わり
(17より続く)
『Friends&Lovers』がクランクアップすると、スタッフから花束を渡された。周囲の拍手に、胸がつまり、ありがとうございますと口にするのが精いっぱいだった。
そして、試写会。やはり、会堂竜二と白井愛のラブシーンには嫉妬した。身体が熱くなった。それはどこまでも狂おしく、美しかった。あそこにいるのがなぜ僕ではないのだろう。
雨の降りしきる鉄道の操車場。線路端で僕が一方的に殴られるシーンは、音を聞くたびに、身体が本当に痛くなった。
倒れた僕の血まみれの頭を膝にのせながら、白井愛は泣く。
「バカ、どうして殴り返さないのよ」
「ようやくあの時のあいつの気持ちがわかったんだよ。痛いほどにね」
やがて酒井誠は、ITベンチャーの起業家として成功を収めるが、それはエンドクレジットに挟まれた新聞記事という形で僕が登場することはなかった。
有名な作曲家によるオーケストラとピアノによるエンディングテーマが終わると割れんばかりの拍手があった。僕は言葉もなく観客の人たちにただ手を合わせるのみだった。
『Friends & Lovers』は興行収入五十億円を越える大ヒットとなり、夏の映画祭では映画賞を総なめにし、僕も助演男優賞を与えられた。
「だから言ったでしょ、シンイチ君きっとスターになるって」
主演女優賞をもらった白井愛が授賞式の席上で耳打ちした。
「いや、これはたまたま、共演者に恵まれてツイてただけ。本当の勝負はこれからだよ。だってまだ主演男優賞が残ってるもん」
「おう、言っちゃてくれちゃって、調子乗りすぎだぞ、こいつは」
お祝いにかけつけたさつきさんが僕の頭を小突いて言った。
当然、主演男優賞は、会堂竜二だった。浅倉洋子が何ももらえなかったのは、ちょっと気の毒だった。グラスを片手に、周囲には笑顔で挨拶を繰り返していたが、どこか寂しげだった。
「彼女も頑張ったのにね。でも、今はそっとしておいてあげましょう。この悔しさがバネになるのよ」
「そうだね」
白井愛は遠い目で、彼方を見つめていた。
(19へ続く)
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
『ホワイトラブ』目次
1.プロローグ
2.ホテルニューイサカ
3.白井愛
4.セントラルパーク
5.サタケ商店街
6.エトワール
7.ヤメセン
8. 那珂川さつき
9.White Love
10. 視聴率
11.フェニックス
12.ツダマガ
13.那珂川さつき PART2
14.読書の時間
15.相互作用
16.Friends & Lovers
17.初詣
18.祭りの終わり
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