11
(10より続く)
「何、その斜め上の展開、ウケル」
高梨聡美はモカマキアートなんとかという呪文のような名前のドリンクを飲みながら、オープンカフェのテラス席で言った。
「だから言ったでしょ、相当な食わせ物だって。でも、面白そうな子ね。彼女の携帯番号教えてくれる?いきなりメールを送るのもスパムっぽいから」
「じゃメールで予告しておこう。高梨聡美という素敵なおねえさまが君と連絡とりたがっていると。君のメアドも教えとこう。電話でもいいけど、いないと何度もかけなきゃいけない。」
「先生はLINEをつながなかったの」
「だって、これガラケーだもの。設定が面倒くさくて楽しくない」
「さっさと買い替えなさいよ」
「あ、もう返事がきた。了解だそうだ」
「あ、もうメールが来たわ。はじめまして。聡美おねえさま、よろしくお願いします。以後連絡はLINEの方でだって」
それからしばらく、私の目も気にすることなく高梨聡美は黒川瑠衣とLINEのやり取りをしていた。ときどきくすくすと笑いながら、どんどんと文字を打ち込んでゆく。
「黒川さんて思ったよりいい子ね、とても頭がいいし」
「頭良すぎるよ、天才だ」
「いろいろ面白いこと教わったし、また楽しみが増えちゃった。さて、これからどうしようかなー」
高梨聡美と黒川瑠衣、二人が連絡を取り出したら何が起こるかわかったものではなかった。不気味な予感がした。
12
大手出版社である講学館漫画大賞が発表されたのは、夏休みが迫る7月中旬のことだった。大賞受賞作は、黒川レイ『ガーディアン・ストーカー』。どうやら、下の名前だけいじったみたいだ。賞金はなんと100万円。私立高校の専任教諭ならボーナスでもらえる額だが、今の私には縁のない数字だった。
お祝いの電話をかける。
「ありがとう。で、読んでくれた?」
「ネットで結果を知っただけだから、まだ。で、なんでペンネームはレイ?」
「ルイってフランスだと男の名前でしょ。あんまり本名から離れると自分じゃない気がするからなるべく音が近い方がいいかなと思って。そうか読んでないんだ」
くくくと笑いを抑える声が聞こえた。
「聡美おねえさまと会っていろいろ教わったの。本当に物知りでいい人」
私の知らない女だけの世界が広がり、私は取り残される。
(13へ続く)
『ペーパーリレーション』 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10,11-12,13-14, 15,16-17, 18, 19
『ホワイトラブ』 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関わりありません。
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