LOVE STORIES

Somebody loves you-J-POPタッチで描く、ピュアでハートウォーミングなラブストーリー集

ペーパーリレーション 10

2016-12-21 20:40:41 | 小説

10


(9から続く)

 土曜の3時に、学校に近いファミレス「スカイルーク」で、私たちは待ち合わせた。

「こちらが菅谷実先生、あなたの答案を見て、心配して…」

「体育館で先生と一緒にいた人でしょう。それから帰りも先生と一緒に一つの傘で帰ったわね」

「それは傘を持ってなかったから」

「普通はタクシーで帰るところでしょ。で、二人はできてるの?」

 ぶしつけな質問に、私たちは思わず顔を見合わせた。赤塚佐和子もやや顔を赤らめ困惑した表情を浮かべていた。

「こないだ学校で顔を合わせただけで、会うのはこれでまだ二度目。だから、そんなことは」

 赤塚佐和子は、しどろもどろになりながら、弁解した。どちらが生徒でどちらが教師かわからなかった。

 黒川瑠衣は、細長の目に黒いロングヘア、唇も細く、鼻筋は通っていて、どこかしら東ヨーロッパ風の顔立ちであるけれど、日本女性特有の神秘さを漂わせるというこの世離れした容姿の持ち主だったが、その声には感情がほとんど含まれていない。まるで高機能で人間と見分けのつかないAIを相手にしているかのようだった。そして、根掘り葉掘りこれまでの経緯を聞きだしては、こう結論した。

「結構お似合いね、よかったね、先生」

 黒川瑠衣は、赤塚佐和子に向かって言った。話題を切り替えないと。

「漫画描いているだって、よかったら見せてくれないかな」

「あ、言うと思った。ちゃんと用意してあるよ。作品は見せられないけど、こんなので良ければ」

 彼女が布製のバッグから取り出したのは、一冊の大きなスケッチブックだった。そこには、軽く鉛筆でラフを描き、その受けからペンでなぞるように何十の顔や、住宅、教室などの建物や、内部のインテリアなどが描かれていた。おそろしく精緻でありながら描線に勢いがある。だが、単なるデッサンではなく、物語の登場人物になっていた。ほんの一本の線で、ちょっとした感情のゆれを表現することができる。ページをめくってゆくとそこに赤塚佐和子の顔もあった。そしてさらにめくると、相合傘をしている男女の後ろ姿まであった。そして、最後の方には私の顔も。たとえ卓球の最中に彼女が私の顔を見たとしてもほんの数秒だろうに。

「私一度見た光景は忘れないの」

にやにやと笑いながら、頬杖をついて私の方を見やる。黒川瑠衣の隣で、赤塚佐和子はやや顔を赤らめながらバツの悪そうな顔をしている。

「まいったな、これは。それで例の答案に描いた文字だけど」

「その作品は、もう仕上げて送ってしまったから、手元にはないけど、ご想像通りよくあるお話ね。ストーリーは一人の女子高生がいじめに遭って、自殺を試みる。後は、本に載った時のお楽しみ」

「本になるの?」

「まだわからない。でも、今度の作品には自信があるの。前半はさんざん悩んだけど、後半ストーリーがスムーズに運んだから」

 黒川瑠衣は私とメールアドレスの交換をしたけれど、私の携帯電話がガラケーなのにがっかりしたようだった。やってやれないことはないが、反応がとろくリアルタイムのやりとりでないし、お金も余分にかかる。LINEの意味がないというのである。

「何でスマホにしないの。塾とか予備校で教えてるんでしょ。センセイともLINEでつながろうと思ったのに。お勘定はお願いね。今度会う時は、私が払うから」

もうプロになるつもりでいる。すごい自信家だ。

「ここは私が」

 赤塚佐和子が言う。

「いえ私が」

「じゃ、ご自分の分だけで、この人の分は私が」

 黒川瑠衣は目を細めながら私たちのやりとりを見ていたが、勘定が済むのを見届けると「では、お先に」と言ってファミレスから出て行った。

「結局あの子は何がやりたかったんだろう」

「さあ、人間観察かしら。それから情報源の確保」

人間って面白。死神デュークの声が聞こえるような気がした。

 (11へ続く)   

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この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関わりありません。 


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