10 視聴率
(9から続く)
初回の話題性も去り、『やめせん』の視聴率は13.9%、15.7パーセントとまずまずの数字ではあったが、シリーズ化をもくろむスタッフは20パーセントの大台に乗せることが悲願だった。一気に人気が沸騰したのは、五回目の放映からだった。
チンピラともめ事を起こし、ヤクザの事務所に囚われの身となった生徒役の僕を助けるために、那珂川さつき演じる女教師は、クラスメートを引き連れて大立ち回りを繰り広げる。囚われた僕は、口の傍から血を流している。
それを見て逆上した彼女は、そこで大乱闘を繰り広げ、僕はクラスの仲間によって助け出される。しかし、やくざの若いのがついに刃物を持ち出して、彼女を一突きにしようとする。低く腰に構えたプロの手口である。それを見た僕は、
「危ない、先生!」
と叫んで、間に入り、代わりに刺される。腹から血を流して倒れる僕。そこへ、女生徒の通報でかけつけた警察が踏み込み、その場を収拾する。刺した男は逮捕され、僕は救急車で病院へと運ばれる。そのそばで彼女は絶叫する。
「死ぬな、浩太!(進藤浩太、これが僕の役名だった)」
この事件が原因となり、那珂川さつき扮する教師は学校を去ることになるのである。
21.1パーセントと『やめせん』の視聴率が初めて大台に乗った。さらに学校を去る時に、彼女が生徒に残す長いスピーチが感動を呼び、翌週は26.9パーセントに達する。
スタッフに誘われて、ロッポンギで盛大に祝賀会をやった。酒豪で知られる那珂川さつきは、二十歳になったばかりの僕に、水割りをつくりながら、言った。
「この視聴率は、あたしとシンイチがたたき出したようなものだから、自信持っていいよ。あれは本当に泣ける芝居だった。大根だったけどね。」
誉めてるのかけなしているのかわからないような言葉だった。
一方、僕のブログのコメントも増え、記事をアップするたびに、ファンです、応援していますというコメントが何十もつくようになった。週に二、三十通のプレゼントまじりのファンレターが事務所に届き始めたのもほぼ同時だった。
僕の知らないところで、シンイチの存在が次第に大きくなり始めたのだった。
このころから、アルバイトで店頭に立つときには、熊野屋でも、ブックオンでも、黒い縁のメガネをかけるようになっていた。テレビレギュラーの俳優が細々とアルバイトをやっているなんてことは知られるべきではないし、サインをねだられれば店に迷惑がかかる。
それを快く思う客ばかりではないのだ。
(11へ続く)
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
『ホワイトラブ』目次
1.プロローグ
2.ホテルニューイサカ
3.白井愛
4.セントラルパーク
5.サタケ商店街
6.エトワール
7.ヤメセン
8. 那珂川さつき
9.White Love
10. 視聴率
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