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(8より続く)
赤塚佐和子から電話があったのは、それから十日ほどした水曜日の夕方だった。学校で会った際、平日は夕方5時以降毎日スケジュールがびっしりだが、水曜日はいろいろな用事を処理するためにオフにしてあると伝えてあったためなのだろう。
「黒川さんのあれね、漫画のネームの練習ですって。模試が返却になったから、昨日呼んで直接聞いてみたの」
「漫画のネームですか」
「そう、絵こそ描いてないけど、モノローグの部分。雑誌の新人賞に応募するためのネームをずっと考え続けていたから、つい時間が余って書いてしまったみたいです。あの子ね、今までもあちこちに投稿して、賞を獲てるみたい」
「人騒がせだけど、よかったですね」
「それでね、あなたに会いたいって言うの」
「えっ、何で。話したんですか」
「赤塚先生が自分でこんなことを言うのはおかしい。ふだんぼんやりしてるから、外部模試の答案に落書きしても気がつくはずがないと突っ込まれて、経緯を話してしまったの。ごめんなさい」
おいおい。予想外の展開だった。そこはシラを切り通すところだろう。
「まあ、あくまで彼女の個人的な興味みたいだから、学内じゃなくて学外のどこかでということで」
「しかたがないですね。向こうの言うに通りにしましょう」
正規のルートから外れた相談のためなのか、二人ともどこかしら後ろめたさがあった。
「わかったわ。今、彼女とLINEをつなぐから」
「えっ、ラインでつながってるんですか」
「生徒の半分以上はLINEをやってるみたいだから、でもつなぐのは今回みたいに何かがあったときだけ。教師が生徒のLINEに全部つきあってたら、そのうち収拾がつかなくなるし、父母から公平さを欠くと言われるかもしれないでしょ」
赤塚佐和子は黒川瑠衣が伝えてきた日時と場所を私に伝えた。
「それでいいかしら」
「その時間は空いているけれど、すんなり生徒の言うことを聞いてしまうんですね」
「悪い癖だって言われてる。でも、あなたも似たようなものね」
赤塚佐和子は、声をたてて笑った。
( 10へ続く)
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この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関わりありません。
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