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LOVE STORIES

Somebody loves you-J-POPタッチで描く、ピュアでハートウォーミングなラブストーリー集

ホワイトラブ 15

2014-11-11 12:51:51 | 小説

15 相互作用
14から続く)

 映画のタイトルは、『Friends & Lovers』だった。四人の若者の友情と、恋のからみ合いを描く青春劇である。中心には、会堂竜二と白井愛がいる。そして、会堂の昔の恋人役の新人女優浅倉洋子と、白井愛の幼ななじみの友人の僕がいて、結局僕と新人女優演じる女の子はふられる役柄であるらしい。
 記者会見の席上で、僕たち四人は揃って写真を撮り、インタビューに答えた。
 会堂竜二は言う。
「すごく気合入ってます。この作品代表作にしてみせます。めちゃヒットするはずなんで、みなさんも応援よろしく」
 白井愛
「初めての大きな役なのですごく緊張しています。会堂さんの足を引っ張らないように、頑張りたいと思います」
 浅倉洋子
「デビュー作でこんな大役を任されて不安と期待が混じった心境です。会堂さんはずっと憧れてた方なので、共演できるなんて夢みたいです」
 そして、付け足しのように僕。
「ええと…一晩寝ないで格好いいセリフ考えてたんですが、凄い映画と凄い共演者に圧倒されて、忘れてしまいました。すいません。頑張ります」
 一人ボケを狙い、それなりに笑いをとれると期待したが、誰も注目していないのか、あっさりスルーされてしまった。

 四人でのショットの後、会堂竜二や白井愛は個別にフレームに収まっていたが、僕と浅倉洋子にはお呼びがかからなかった。取材陣の視線は、監督やテーマ音楽の作曲家の方に向かっていた。
「シンイチさん
 浅倉洋子が声をかけてきた。
「初めまして。浅倉洋子です。『ヤメセン』見てます。シンイチさんのファンなんです」
 セミロングで、高校で学級委員長をやってそうな美少女キャラである。でも、見かけと中身は大違いかもしれないから、気をつけないといけないと思った。
「ありがとうございます。シンイチです。よろしくお願いします
 あれ、君、会堂竜二のファンだったんじゃないのと突っ込み返すことはしなかった。リアクションを外され、つまらなそうな顔をしたのが印象に残った。

 控室に戻ろうとした時、廊下で会堂竜二と出くわした。いや、向こうが待ち伏せしていたと言った方がいいのかもしれない。彼は、急に首根っこをつかんで、こう言った。
「白井愛はオレのものだ、わかってるんだろうな」
「何の話ですか」
「なんちて。そう、マジになるなよ」
 そう言って、僕の胸を軽く手のひらで小突き、白い歯を見せた。
「でも、気合入れて芝居してくれよな。絶対ヒットさせて見せるから。二人で殴り合いのシーンとかあるから、そん時は本気で殴っていいぜ」
「それヤバいですよ
「気にするなって。オレも本気で殴るから、覚悟しとけよ。じゃあな」
 案外いい人なのかもしれないと思った。でも、冗談と本音の区別、芝居と現実の区別がつかないあぶない人のようにも見えた。どっちだろう。

 そして、さらに先に白井愛がいた。
「シンイチ君
「やあ、元気」
「元気よ、でも何それ?せっかくの共演者に向けて、その台詞
「一緒にやれてうれしいよ」
「それ本音?
「嘘ではないよ。でも、今はいろんな気持ちがごっちゃになって何がなんだかわからないのが正直なところ」
「それは私も同じ。で、台本読んだ?」
「まだだけど、どうかしたの」
「キスシーンあるのよね、会堂さんと」
「僕たちのはないんだ」
「そうみたい」
「だから、あの時キスしたんだ」
「あれは、その時の正直な気持ちだったの。でも、映画のことが頭になかったと言えば嘘になる」
「乗りかかった船だ。今さらくよくよしたってしかたない。僕たちはしょせん、料理の素材なんだから、言われたとおりに演じるしかないんだ。プロだから」
「プロだから…シンイチ君、立派になったわね。でも、それでいいの?」
 彼女は役者ではなく、一人の女の子としてそう言っていたのだろう。でも、ここまで来たら言っても仕方のないことだ。僕たちは他人の夢の中を生きているのだから。
「自分の喜怒哀楽を忘れて、役柄の喜怒哀楽を生きる。それが役者の世界に生きることの醍醐味じゃないかな。Seize the day」
「今を生きろってことなのね。」
「そう、この世界に生きることのできるのは、何万というこの世界を夢見ながら、生きることができなかった人の分まで生きることなのだから」
「凄いよ、すごいよ、シンイチ、たった数ヶ月でそんな境地になれるなんて」
 多分、会堂竜二に首根っこをつかまれたせいでのぼせあがっているのだと僕は思った。そうでなければあまりにも立派な台詞、自分でも穴に入りたくなるくらい恥ずかしかったにちがいない。

 再び相互作用(エッジ・エフェクト)という言葉が浮かんでは消えた。

16へ続く)

この物語はフィクションです。実在の人物団体とは一切関係ありません。

『ホワイトラブ』目次
1.プロローグ
2.ホテルニューイサカ
3.白井愛
4.セントラルパーク
5.サタケ商店街
6.エトワール
7.ヤメセン
8.  那珂川さつき
9.White Love
10. 視聴率

11.フェニックス
12.ツダマガ
13.那珂川さつき PART2
14.読書の時間
15.相互作用



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