LOVE STORIES

Somebody loves you-J-POPタッチで描く、ピュアでハートウォーミングなラブストーリー集

ホワイトラブ 17

2014-11-13 14:43:41 | 小説

17 初詣 
16より続く)

 シンイチの芝居が変わった、急によくなったと言われだしたのはその後からだった。僕は神経を研ぎ澄ませ、周囲の空気を読みながら、しかもそれが表情に出ないように努めた。映画のスタッフ、共演者が求めているものは一人一人違う。だから、その場でその和を計算して、それに小さなイチを足すことにした。真っ白な、ゼロのままの自分をその場に投げ出せば、間の空白が埋まり、そこに新しいイチが生まれるのだ。それがシンイチの芝居なのだ。

 共演者の一人一人を、スタッフの一人一人を、メイク、小道具の人さえも僕は愛した。ほんの一言のさりげない言葉を、できるだけ多くの人と交わし続けた。

 どんどんと撮影は進んでゆく。いつしか年が変わったが、年末年始の休みが明けるのが待ち遠しかった。いつしか僕は映画ジャンキーになっていたのだった。

 白井愛からは、クリスマスカードが届いていたが、まるで返す気持ちになれなかった。映画の役柄にはまりすぎて、共演者の彼女とは距離を置こうとしたのかもしれない。彼女はそれでも電話をかけてきて初詣に出かけようと言った。
「和服で行こうよ、お願い」
「なんで、和服?」
 仕事用に作ったのは一着あったが、それでいいのだろうか。
 神社の鳥居の外で待ち合わせをした。朝早いと言うのに、初詣客は長蛇の列をなしていた。
「ごめん、電車混んじゃって。待った?
「じゃ、行こうか」
「まだよ、後二人」
 向こうから、和服のカップルが現れた。会堂竜二と浅倉洋子だった。
「よう。あけおめ」
「あけましておめでとうございます」

 会堂竜二は手を挙げて気さくに声をかけてきた。普段とは雰囲気が全然違う。まるで別人だった。なるほどコスプレか。『盗まれた手紙』。周囲も和服だらけだから、これなら目立たない。

「明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします」
 浅倉洋子の和服姿も板についていた。さすが芸能人である。
「映画のヒット祈願ですね」
 白井愛が言う。
「ただのヒットじゃなくて、大ヒット祈願。ヒットしないわけないもん。オレも凄いけど、こいつも凄い。最初正直軽く見てたけど、どんどん化けちゃってさ、本当、ヤバいよ、シンイチは」
 列に並びながら太鼓橋に上がると、大江戸タワーが拝殿の向こうに見えた。
「春になると梅や藤もきれいなのよね、ここ」
 まるで映画の中の高校時代、仲良し四人組みたいだった。こんな風に正月を人並みに、人並み以上に楽しく過ごせるなんて、去年の今頃は思いもよらなかった。タコ焼きに、綿菓子、とうもろこしに、たい焼き、僕たちは次から次へと屋台を制覇して行った。かけがいのない一日が、走馬灯のように過ぎていった。最後に、四人でわけもなく、ハグし合ったのだった。

(18へ続く)

この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

『ホワイトラブ』目次
1.プロローグ
2.ホテルニューイサカ
3.白井愛
4.セントラルパーク
5.サタケ商店街
6.エトワール
7.ヤメセン
8.  那珂川さつき
9.White Love
10. 視聴率

11.フェニックス
12.ツダマガ
13.那珂川さつき PART2
14.読書の時間
15.相互作用

16.Friends & Lovers
17.初詣



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