LOVE STORIES

Somebody loves you-J-POPタッチで描く、ピュアでハートウォーミングなラブストーリー集

ペーパーリレーション 13、14

2016-12-23 22:39:03 | 小説

13

(12より続く)

 どこかから黒川瑠衣に観察されているかもしれないと不安からか、赤塚佐和子と連絡を取り合いながらも、二人の距離はなかなか縮まらなかった。こんな副作用があることを彼女は知っていただろうか。とりあえず、電話した。

「黒川さん、漫画で大賞を受賞したみたいだけど。賞金100万円だって」

「大事なのは漫画の中身でしょう。読まれました?」

「いや、まだだけど」

「私は買って読みました。話はね…」

 やられたと思った。早く買って自分の目で確かめないと。

 電話を切ると今度は高梨聡美から電話が鳴った。

「黒川さんの漫画読んだよ。本人にも会ったけどね。とにかく凄い。天才、いや超天才。それにしても、あの漫画凄いよ、何が凄いって、それはまあ読んでのお楽しみ」

14


 第21回講学館漫画大賞受賞作黒川レイの『ガーディアン・ストーカー』は、ある自殺志願の少女の物語だった。周囲からのいじめにあった高校2年生の倉橋めぐみはさまざまなやり方で、自殺をしようと試みる。しかし、校舎の屋上から飛び降りようとするとふだん話したこともない教師がやってきて話しかけ、余りのうるささにその気をなくしてしまう。電車に飛び込もうとすると、誰かが自動停止装置のボタンを押したらしく、自分の目の前で止まってしまう。車にはねられればと思って車道に踏み出そうとすると、直前でその車はコースを外れ、電柱にぶつかり衝突、周囲は騒然となる。さらに自宅で睡眠薬自殺をしようとすると、何者かによって薬が持ち去られたらしく部屋中探しても見つからない。湘南の海まで出かけて、入水自殺をしようとすると、しつこくヤンキーのグループに誘われ、彼らを振り切るために、急に駆けだして海から離れざるをえなくなる。いかなる超自然の力なのか、単なる偶然なのか、何者かの作為なのか。彼女の自殺の企てはことごとく途中で阻まれ、未遂に終わってしまうのである。通常のストーカーは、危害を加え、時には生命を奪おうとする悪意に満ちたものだが、これは逆に彼女を死なせまいとする善意のストーカーにちがいないと彼女は考えるのだった。見えない相手に対する戦慄が、いつしか自殺への意志を上回り、そこで相談相手に選んだのが、担任の女教師村田京子だった。めぐみは自分の自殺の意図を隠しながら、自分がゆく先々で何者かに付きまとわれ、自宅にも侵入した形跡があると訴える。実害がまだないし、相手の姿形も見えないから、警察にも訴えることはできないのだと。村田京子は、自分一人では手に負えないと、同僚の男性教師に相談し、交互に彼女の周辺を見張ることになる。その女性教師と男性教師のモデルが、赤塚佐和子と私であることは、一目瞭然だった。見えない相手を追い詰めようとする知能戦が展開される一方で、最初特別な感情を抱いていなかった二人の教師の距離がしだいに接近してゆく。そして、最後に明かされる敵の正体は?探偵役となって事件を解決するのが、心理カウンセラーである山科あさひであった。

 日曜日、白木駅前の喫茶店の二階で、私はいつものように、高階聡美と話していた。 

「これどう見ても、モデルは高梨だよね。でも、黒川さんが君と会ったのは、賞に応募した後なのに、おかしいな」

「講学館の漫画大賞は、たとえ受賞作であっても、編集者との協議で、雑誌掲載までに手を加えて、完成度の高いものになるようにしていいの。最初は教師二人の協力で解決させる設定だったけど、探偵役としてはどちらも頼りないということで、山科あさひが登場することになったわけね」

「ずいぶんと詳しいんだ」

「直接本人に訊いたもの。取材協力ありがとうございました。今度恵比寿でフレンチおごるからともね」

「小説ならステータスや年齢を変えればわからないけれど、漫画はまんまビジュアルが出るからね」

「でも、素晴らしいのは一人も人が死なないこと、そして最後は主人公が生きる希望に目覚めて終わること、わたしは感動して涙が止まらなかった」

 遠い目を見る高梨聡美の瞳がうるんでいるような気がした。この子の涙は大学合格した時にさえ、見たことがなかった。

但し、物語のラスト数ページは、二人の教師が教会で結婚式を挙げ、そのブーケを少女が受け取るというベタなものだった。

「ところで、二人の距離は縮まったのかな?頼りない探偵さん」

「全然」

「何、えらそうに。せっかく瑠衣ちゃんがメッセージ寄せてるのにわからないのかなあ」

(15へ続く)   

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『ホワイトラブ』 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19 

この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関わりありません。 

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