上越新幹線開業二〇周年になるという。昭和五十七年(一九八二年)の六月に東北新幹線(大宮・盛岡間)が、この年の十一月には上越新幹線(大宮・新潟間)が開業した。
私は当時、建設会社の二年目の社員として、新幹線最後の工区である上尾工区にいた。開業までの工程を守るために工法を急速施工仕様にして、会社も国鉄も大変だったが、新入社員同然の私にも辛いことが多かった。
現場では巨大なクレーンが林立して、新幹 . . . 本文を読む
「おーい、アレの報告書まだかな?」と上司の声がかかった。三ヶ月前の発掘で見つけた大きな鉄の箱のことを言っている。
「なにしろ情報省のコンピュータに無いんですから、憶測で書くわけにもいかないし」
発掘から三ヶ月もたってもモノが弾薬や武器ではないから、多くの国民の興味は薄れている。約四〇〇年前の何かに使った遺物に違いないのだが、それ以上は不明である。
「昔の、ただの倉庫じゃないのか?」
「私は作業所 . . . 本文を読む
私が佐伯のおじさんの葬式に出たのは父親の代理としてだった。おじさんは猟銃を抱えて一年の半分を暮らすという、変人に見られていた。
隣組は皆集まったが、親戚がいないため、おじさんの昔を語る者はいない。火葬場まで皆も来ていた。市営の火葬場にはどんよりして、冷たい風が吹きつけている。待合室の戸は風で叩かれ続けている。
中に一人おじさんを治療していた医者という方がいた。辻本さんというその老人は若い私に . . . 本文を読む