「政治家は嘘を言ったり、言い抜けをしたりするものではない。いったん三月上旬に登院すると言明した以上、生命を賭しても一〇日には登院せねばならぬ。世人が政治家の言を疑っていたら政治はできない」。これは、昭和五年十一月に東京駅で凶弾に倒れた首相・浜口雄幸の言葉である。命をとりとめたものの療養も十分でない時期の登院をさめさせるべく進言した家族に対して、言い放った言葉である。
浜口首相が目指していたのは国 . . . 本文を読む
今回の白川英樹・筑波大名誉教授が今回、文化功労賞として顕彰され文化勲章を受けたのは、ノーベル賞受賞の「後追い」だった。一九八一年にノーベル化学賞を受賞した福井謙一氏も同様に文化勲章など国内の評価はノーベル賞の後だった。
ノーベル賞選考委員会が発掘できた人物を、なぜ自国の文化勲章審査会が見つけられないのかと、素朴な疑問を持たざるを得ない。文部大臣の諮問機関である「文化功労者選考審査会」の選考方法 . . . 本文を読む
施主である赤ら顔の実業家は、笑顔で建築会社の営業マンの私を迎えてくれた。集金後の雑談に入っても終始機嫌は良かった。機嫌がいい理由の一つは、その支払い額だった。
会社の重役の知人ということで、会社ではあまり個人住宅に手を出さないのだが、この実業家の家のリフォームを引き受けた。私が、集金して一応の業務は完了だ。
話の途中で、フッと窓に目をやった私は、雨滴が窓に当たっているような気がして、
「アッ . . . 本文を読む
アメリカのアクション映画「リーサル・ウェポン」(主演メル・ギブソン)は、もう何作か続いているヒット作である。
映画の中で中年の黒人俳優ダニー・グロ-バーが扮するマータフ刑事が、警察を定年退職するということで、家族でパーティーを催すシーンがある。
日本では、定年と聞くと「次の就職先が見つからないと不安」という事情があるから家族一同が、お祝いをするということは少ないだろう。
退職をマラソンのゴ . . . 本文を読む
昭和五十七年頃、私は建設会社の設計部門に身を置き、仕事で遅くまで残業続きの毎日だった。若く独身であった私も無理をしていた。
その頃流行っていた「サザンカの宿」(歌・大川栄策)が、会社の帰路・渋谷の繁華街の各飲み屋さんの有線放送から漏れ聞こえていた。歌は人妻の成就できない不倫を歌ったものだ。
仕事をしてもしても仕事は減らず、変らぬ自分の境遇を、この歌の「…燃えたあーって、燃えたあーって、ああ人 . . . 本文を読む