女優北林谷栄さんが九十八歳の天寿を全うした。私は映画「大誘拐」が大好きだ。その後天藤真氏の原作も数回読んで、この方しか主演はいないという当たり役だ。「大誘拐」は北林さん演じる紀州の富豪のおばあちゃんが誘拐され大事件となるが、このおばあちゃんが犯人を手足の如く使い、自分の身代金を奪い・・という話だ。一人の血も流れず、人望のあるおばあちゃんの帰りを周囲は喜ぶが、結局巨額の身代金は消えたままだ。
大病をされた後のこの復帰一作目だったにも関わらず、全編を通し北林さんの光る演技に平成三年日本アカデミー賞の主演女優賞が贈られた。この映画は人間の大きさ・弱さ・遊び心・老い・押さえられない感情の起伏、お金の軽さ、国家の非常さと様々なものを教えてくれる。最後にテレビの再放送で、北林さんの姿を見せていただけないかと思っている方は多いと思う。合掌。平成二十二年五月二十二日。