女優北林谷栄さんが九十八歳の天寿を全うした。私は映画「大誘拐」が大好きだ。その後天藤真氏の原作も数回読んで、この方しか主演はいないという当たり役だ。「大誘拐」は北林さん演じる紀州の富豪のおばあちゃんが誘拐され大事件となるが、このおばあちゃんが犯人を手足の如く使い、自分の身代金を奪い・・という話だ。一人の血も流れず、人望のあるおばあちゃんの帰りを周囲は喜ぶが、結局巨額の身代金は消えた . . . 本文を読む
過日車を運転中、カーラジオからゲスト・島倉千代子さんを迎えてのトーク番組が聞こえてきた。彼女の有名な持ち歌に「東京だよ、おっかさん」という歌がある。私もこの歌が流行ったときに物心ついていたわけではないので、東京見物をする母娘の話だろう程度の認識しかなかった。しかし話を聞き、ずいぶん考えを新たにした。
この歌詞は確かに、東京の名所を案内しているようであるが、実はそうではない。皇居周辺、二重橋、そ . . . 本文を読む
東京・新宿の昭和館が閉館になるという。任侠映画(ヤクザ映画)を専門にしていた映画館である。私が昭和館を知ったのは、都内の会社に勤めていた時である。酒のつきあいで、終電も逃してしまうことも時たまあった。そんな時は新宿のサウナで、ここが満員ならこの映画館のオールナイトで夜を明かした。
映画は「仁義なき闘い」「網走番外地」などである。俳優は高倉健、菅原文太、若山富三郎、池部良、川地民夫、松方弘樹、渡 . . . 本文を読む
二〇代前半の頃、電車通勤で中央線の東小金井駅から渋谷駅まで通っていた。会社の独身寮から会社まで一時間半かかったと思う。
当時から特に中央線は過密路線であった。ギュウギュウ詰めの電車内が嫌で、少しでもこれを紛らわせるため、私はある日落語のテープを数本買い、車中でこれを聞き始めた。三遊亭円楽さんと、先ほど亡くなった古今亭志ん朝さんの噺である。
イヤホンから漏れる寄席囃子を聞き、隣りの人は怪訝な顔 . . . 本文を読む
若い頃落語に凝ったことがある。寄席に何度か通ったり、電車通勤の間、カセットテープを聞いたりした。私の好きな落語に「芝浜」がある。「芝浜」はこんな噺である。
腕はいいが酒癖が悪く怠け者の魚屋・勝っちゃんが、ある朝河岸で五十二両の大金を拾う。帰って来て仲間と呑みまくる。そのまま寝る。起きておカミさんに、それは夢だと云われる勝っちゃん。自分のバカさ加減に愛想がつき、酒を断ち、借金を返すため、死にもの . . . 本文を読む