熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

A.ウィギン/K.インコントレラ著「借金大国アメリカの真実」

2009年11月25日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   国債の残高が800兆円超の日本としては、借金大国と言われても、国債を保有しているのは日本人自身であるから、それ程恐れはしないが、アメリカの借金大国と言う場合のニュアンスは、全く違う。
   と言うのは、その国債の過半を、中国や日本など外国の債権者が保有しているところに問題があり、その帰趨によっては、ドルの弱体化を憂慮せざるを得ない状況となっており、アメリカ資本主義、そして、その屋台骨を揺さ振りかねない状況にまで至っているのだが、殆どのアメリカ人は、その深刻さにさえ気付いていないと言う。

   この借金漬けで、実質的財政破綻に近づきつつあるアメリカ経済の状況を憂慮して製作された映画のBOOK版が、この本「I.O.U.S.A. ONE NATION UNDER STRESS.IN DEBT」である。
   I owe you. 「借りがあるUSA」と言うニュアンスだが、今回の金融危機前だとは言え、グリーンスパン、ルービン、バフェット、ヴォルカー、オニール等々著名人に直接インタビューして、その概要を掲載しており、アメリカ経済に対する危機意識の一斑が伝わってきて面白い。

   アメリカ経済は、ずっと以前から、双子の赤字問題が指摘されていたが、財政赤字については、クリントン政権時代に一時黒字に転換した。
   しかし、実際には、例年大きな余剰金を出している社会保障プログラムからの補填のお陰であり、この余剰金が、ずっと、深刻な財政赤字を支えて来たのだが、ベビーブーム世代の退職者の数が増えるにつれて、社会保障のバランスシートが悪化して、2017年には、支給額が収入を上回って収支逆転して、深刻な事態に陥ると言う。
   これを「シルバー津波」と称して、これ以上の恐怖は、イスラム原理主義者が米国を核攻撃する以外には考えられないと言うのである。
   米国にとって最も深刻な脅威は、ビン・ラディンではなく、自国の無責任な財政であるとも言う。

   1991年から2002年まで、連邦議会議員たちは自ら「ペイ・ゴー・ルール」を課して、すべての支出増加について、それが法制化される前に増加分を手当てすると定めていたので歯止めが架かっていたが、そのルールが失効すると、ブッシュ政権の放漫財政政策によって、一挙に手の届かない所まで財政赤字が跳ね上がってしまったのである。

   ところが、オバマ政権に移行後、深刻な景気対策のみならず、大きな政府政策による大盤振る舞いで、更に財政が悪化し、2009年度の財政赤字は、1.8兆ドルをオーバーし、2010-2019年度の累積赤字額は9兆ドルになると言う。
   この借金の穴埋めのために、中国・日本や他の新興国などに国債を買ってもらって賄っていたが、国債の購入を拒否されれば、一挙にドルが暴落して、基軸通貨から転落してしまい、ドル札を印刷し続けるだけで、世界中からモノを買い続けてこられたアメリカだが、パニックに陥ってしまう。
   もう一つの貿易収支の赤字が、更に深刻であり、アメリカ人の貯蓄率が、限りなくゼロに近い現状を考えれば、先行き真っ暗で目も当てられないような状態だが、悲しいかな、宇宙船地球号は、フラット化したグローバリゼーションで雁字搦めに連結されてしまっているので、アメリカがこければ、世界中がこけてしまうのである。 

   日本の子供たちは音なしの構えだが、アメリカの学生たちは、「憂えるアメリカの若者(CYA)]を立ち上げて、アメリカ政府の赤字支出を「代表なき課税」だとして、いい加減にしろ、と動き出した。
   膨張する連邦債務の行く末と持続可能な給付プログラムがアメリカの経済にかける負担が当面の関心事のようだが、行政の舵取りや健全な財政判断を、上の世代には任せて置けないと果敢に行動し始めたのである。
   この本でインタビューを受けた傑出した人物たちは、「アメリカ経済が現在の進路を持続して行くのは不可能で、何らかの対策を早急に講じなければ、子供や孫に、自分たちの誤りの代価を支払わせなければならなくなる」と言う見方では一致していると言う。

   インタビューで面白いのは、グリーンスパンが、「私たち経済学者が、資産を売却して得る資本利得では、実質資本投資や生活水準維持のための資金は調達できないと説いても、401kがあり、持ち家がある平均的な所帯は意に介しません。」と言っているのだが、ロナルド・ポールとの議論で、住宅価格が上昇しているから貯蓄と同じだとして、上がったり下がったりする住宅は貯蓄ではないと一蹴されている。住宅価格は、いまだかって下がったことがないと言う信念がグリーンスパンを誤らせたということであろう。

   バフェットが、徹頭徹尾、アメリカ経済の健全性を信頼していて、それほど疑いを持っておらず楽観的なのが興味深い。所得格差については危惧はしているものの、一番所得の低い人でも、100年前の一番所得の高い人より遥かに良い暮らしをしており、潮が差せばどんな舟も浮かぶが、ヨットならいち早く浮かぶなどとピンと外れで訳の分からないことを言っている。 
   ブッシュに解任されたポール・オニールの論理展開は極めて明快で、ブッシュやチェイニーの思慮のなさが良く分かって面白い。

   もう一つ興味深いインタビューは、税金を下げれば税収が増えるとするラッファーカーブのアーサー・ラッファーが、滔々とサプライサイド経済学と富裕者優遇政策の利点を説き続けていることである。
   評者である慶大小幡積教授は、完全に誤りだとラッファー説を否定しているが、私自身は、経済状態が異常な状態になった場合、例えば、ブッシュ政権後期のような状態の時などには、むしろ害になるとは思うが、比較的経済状態が正常な時には、有効な政策ではないかと思っている。
   ラッファー云々ではなく、レーガノミックスなりサプライサイド経済学は、完全に無視など出来ない筈である。

   リーマン・ショック以前の本なので、今現在ならどのような内容になるのか、非常に興味深い本だと思っている。                                                                                                                                                          
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