熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

NINAGAWA十二夜・・・シェイクスピアと歌舞伎の融合の舞台

2005年07月25日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   昨夜、歌舞伎座で、素晴らしい蜷川幸雄演出・菊五郎劇団のシェイクスピア戯曲・「十二夜」を観たので、その印象を忘れない為に、「文化三昧ミラノ・ロンドン旅」を、1日休んで、雑感を記して置きたい。

   この公演は、尾上菊之助が、菊五郎劇団のレパートリーを増やす為に発案し、蜷川幸雄がその役者としての魅力と真摯さに負けて演出を引き受けた稀有な例。
   「グリークス」で菊之助・しのぶ姉弟の演技に惚れ込んだとは言え、照明の原田保氏以外は一切蜷川組のスタッフを連れて行かず、歌舞伎王国に留学した学生の積もりで、世界の蜷川が、極めて短時間に仕上げた歌舞伎版シェイクスピア戯曲ロマンティック・コメディ「十二夜」なのである。

   私が、最初に観た蜷川シェイクスピアは、ロンドンで、仏壇を模った舞台に花吹雪が舞う出だしの「マクベス」であるが、その後、バービカン劇場で、佐渡の能舞台を舞台セットに幻想的な演出を試みた「テンペスト(嵐)」を、今は亡き森嶋通夫教授夫妻と本場イギリス人の熱狂の中で観た。
   その後、日本で、幸四郎と黒木瞳の「オテロ」、真田と松たか子の「ハムレット」、竜安寺の石庭を舞台にした白石加代子の「真夏の夜の夢」、そして、本場RSCの役者を糾合して名優ナイジェル・ホーソン主演の「リア王」等、兎に角、イギリス等のシェイクスピア劇の公演と綯交ぜに、楽しんできた。
   今回の蜷川歌舞伎は、今までの蜷川にはないほど、歌舞伎の伝統とその芸術を尊重し、大切に守りながら、シェイクスピア劇の醍醐味を満喫させてくれた。
   これまでは、シェイクスピアに挑戦するために、過去の伝統と仕来りを捻じ曲げてでも、蜷川シェイクスピアを追及し演出してきたが、この十二夜には、その気負いも無理も無駄も一切なく、実に淡々と、歌舞伎の世界には稀有なロマンティック・コメディを、芸達者な歌舞伎俳優から抽出し、独特なシェイクスピアの世界を創出している。

   シェイクスピア劇は、歌舞伎と違って舞台展開が速くて随所に飛ぶのだが、ミラーを舞台に多用して照明を巧みに操りながら華麗な演出をしており、回り舞台と幕構造を上手く使いながら、歌舞伎と蜷川の世界を同時に醸し出しているのがなんとも心地よい。

   歌舞伎もシェイクスピア劇も16世紀末から7世紀にかけて、同じ時期に、洋の東西で生まれ、男の劇として発展し、その芝居の内容・演出等にも共通点が多いが、やはり、シェイクスピアの世界は奥深い。
   ロンドンで観た染五郎の「ハムレット」も素晴らしかったが、歌舞伎版の「リア王」や「じゃじゃ馬ならし」等も観て見たい気がする。

   ところで、この十二夜は、菊之助の役者としての魅力の全開した舞台で、主人公「ヴァイオラ」と「セバスチャン」の兄妹二役を実に瑞々しく華麗に美しく演じている。
   小姓として男装したヴァイオラが、恋のメッセンジャーを命ずる主君に恋して、揺れ動く心の綾を、セツナイ女心を垣間見せながら実に繊細に演じている。
   カミソリを触れただけで鮮血が迸り出るような、そんな激しい情熱と息吹を感じ取れる舞台で、蜷川と同時に菊之助の「十二夜」でもあると思った。

   一方、歌舞伎には全くない「道化(フェステ)」と、この十二夜の副主題の立役者で、部下に散々コケにされて笑いものになるオリヴィア姫の執事「マルヴォーリオ」を人間国宝尾上菊五郎が演じているが、少し重いものの、これがまた秀逸で、歌舞伎役者の実力の凄さを思い知らせてくれる。
   信二郎や時蔵の華麗な演技、そのほか、狂言回しのコミカルな演技を盛り上げる左團次、松緑、亀次郎等の軽快なウイット等など、兎に角、楽しくて、歌舞伎とシェイクスピアをチャンポンで同時に楽しんだような気がした。

   今回のロンドン旅で、グローブ座で、「ペルクリーズ」と「冬物語」を、ロイヤル・オペラで「オテロ」を楽しんだが、シェイクスピアの魅力は限りない。
   今回の「十二夜」は、松岡和子訳ではなくて、小田島雄志訳を今井豊茂氏が脚本化している。小田島氏の駄洒落を歌舞伎役者が駆使しているのが面白い。
   小田島氏訳の白水社Uブックを小脇に抱えて、RSCやナショナルシアター、グローブ座等を随分回ってシェイクスピアを楽しませてもらっている。
   左團次が、台詞の多さに悪戦苦闘したと言っているが、元々シェイクスピア劇は、観るものではなく聴くもの。
   しかし、このNINAGAWA十二夜は、正に、観せて(魅せて)くれるシェイクスピアであった。
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