細い路地を抜けると、ぽっかりと開いた空間があり、人がわたるための踏切があった。渡った先には、再び細い路地が続き、無機質なビルが民家の屋根の上から覗いている。旅先で撮った写真を元に、そんな風景を絵に描いていたら、あまりの乱雑でゴミゴミした風景が面倒臭くなってしまった。色は地味だし、狭苦しくて息苦しい感じがするし、どうしようかなと悩んでいたが、手前から踏切まで描いたところで思い切って方向転換することにした。踏切から向こうの景色をやめ、水平線だけにしてしまったのだ。
まだまだ時間がかかりそうだった絵は、これだけで終了した。
雰囲気は鎌倉かどこかにありそうな景色だが、実在はしない。ただ、漁港や港を中心に栄えた町には、こんな場所は多いのではないだろうか。かつては交通や荷物を運搬する手段は、陸上よりも海上が主流だった。古くから栄えた町は海岸沿いに多い。
今住んでいる福島県にも海はあるが、中心部となる福島市や郡山市は太平洋と日本海をつなぐ中間地点にあり、海からは遠い。不思議なことに東北の太平洋側というのは、海辺にある大きな都市は仙台くらいで、どちらかというと内陸の方が栄えている。福島に来て里山の絵はたくさん描いたが、海の絵がほとんどないのは、原発事故の影響があったこともあるが、海岸沿いに大きな町が少ないこともあって、行く機会が少ない。
こうした海とともに生きている人たちを見たくなったので、ドリの調子が良ければ、一度福島の海岸沿いを訪ねてみたいと思っている。三陸海岸の電車にも乗りたいし、リアス式海岸にある漁村も訪ねてみたいものだ。